【修正中】"スタジアムは、街づくり"について本気出して考えてみた(後編)

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Jリーグのスタジアム像と"まちづくり"
前回は主にソフト面から"まちづくり"とスタジアムの関係を見てきました。
しかし、ソフト面のみを見てハード面を見ないのでは片手落ちと言えます

どのようなスタジアムならば、"まちづくり"に貢献していると言えるのでしょうか?


Jリーグのスタジアムには、2つの指針が存在します

1つはJFAが公開しているスタジアム標準
座席数や屋根をはじめとして細々としたガイドラインが示されています

そしてもう1つがJリーグニュース特別版 スタジアムの未来
こちらは主にヨーロッパのスタジアム視察を元にしたイメージが示されています


スタジアム標準がスタジアムの水準を示すものであるとすれば、スタジアムの未来はスタジアムの方向性を示すものと言っていいでしょう

  • 文化として【サッカースタジアム】 Culture
  • シンボルとして【ホームスタジアム】 Identity
  • コミュニティーができる【ファミリースタジアム】 Community
  • ホスピタリティ【社交スタジアム】 Society
  • 街の集客装置【街なかスタジアム】 Location 
  • 多機能複合型【スタジアム・ビジネス】 Economy
  • 環境にやさしい【グリーンスタジアム】 Ecology
  • プロフェッショナル【スタジアム経営】 Management
  • 防災拠点【ライフスタジアム】 Emergency


スタジアムの未来では、9つのテーマに分けて方向性を示しています。
この方向性は、実は"まちづくり"と密接にリンクしていました

再びまちづくりの方法から。
まちづくりの方法では、10個の"まちづくりの基本目標"が例示されています

  1. 地域の諸活動の中心核となる「まち場」の再生
  2. 誰もが安心して住み続けられる持続可能な地域社会
  3. 歩いて日常生活をおくれる歩行圏中心のまちづくり
  4. 町並み・景観の整備と歴史・文化・芸術の場の創造と再生
  5. 多様な生活像が共存し多文化が共生する地域社会
  6. 資源を浪費しないコンパクトなまちの構成
  7. 自然、生態系と共存するまちの仕組みの再生
  8. 人を暖かく迎え入れ、多様な交流の機会を持つまちづくり
  9. コミュニティビジネスなどによる循環型地域経済
  10. 共治を基盤とする地域社会システムの構築


個別の説明は省きますが、最終的にこういった目標を徐々に達成できるようにする持続的活動こそが"まちづくり"である、と説明されています


これらを簡単に比較してみましょう

"地域の諸活動の中心核となる「まち場」の再生"はIdentityCommunity
"誰もが安心して住み続けられる持続可能な地域社会"はEmergency
"多様な生活像が共存し多文化が共生する地域社会"はEconomy
"資源を浪費しないコンパクトなまちの構成"はEcology
"自然、生態系と共存するまちの仕組みの再生"もEcology
"人を暖かく迎え入れ、多様な交流の機会を持つまちづくり"はCommunitySociety
"コミュニティビジネスなどによる循環型地域経済"はSociety

このように多くのポイントがリンクしていることが分かります。
スタジアムの未来は、"スタジアムは、まちづくり"の教本と言えるものでしょう


"街スタ"と"スタ街"
このスタジアムの未来の中で、唯一矛盾するような表現があります。
それが街の集客装置【街なかスタジアム】 Locationという項目

Jリーグニュース特別版 スタジアムの未来 2014年5月31日閲覧》

 欧州のサッカースタジアムもアメリカのボールパークも今、街なかに回帰している。もし、Jクラブのスタジアムも街なかにあったら。人口減少・高齢化時代に、郊外に分散したにぎわいを再び街なかに呼び戻す装置として、昭和時代のデパート同様、中心市街地の核(コア)として強い求心力になるだろう
 わが国でも2010年11月、北九州市が新幹線小倉駅の北500メートルに、ギラヴァンツ北九州(J2)のホームスタジアムとして街なかスタジアム計画を打ち出した。
 VfLヴォルフスブルクで5シーズン半プレーした長谷部誠選手は、ホームスタジアムについて次のように語った。「中央駅から歩いて(10分ほどで)行ける利便性の高い立地なので、試合後に渋滞も起きず、選手としてストレスがありません」

①街づくり
 年間を通して週末ごとに、多いときには万人単位の巨大集客装置となる。千人単位のアウェイファン・サポーターも、試合の前後は「観光客」。スタジアムへのアクセスは徒歩が中心となり、観客が長く滞留する街の仕掛けがあれば、中心市街地に大きな経済効果をもたらす

②都市再開発
 郊外の再開発プロジェクトの核として、面開発の複合型の街づくりが行われる。公共交通や十分な駐車場整備に加え、パーク&ライド整備が必要である。


このように、中心市街地のスタジアムと郊外のスタジアムの両方が説明されています。
これは"スタジアムは、まちづくり"に複数の正解が存在していることを示しているのです

中心市街地の求心力回復のために街中にスタジアムを整備する"街スタ"
都市再開発の目玉として郊外にスタジアムを整備する"スタ街"

この考え方は、2012年に開催されたシンポジウムでも解説がありました

基調講演=プロスポーツと地域社会
《第1回シンポジウム 2012年11月5日》

何故今スタジアムなのか
世界は今人間回帰という言葉で街中に暖かみのあるスタジアムに移行し始めている
 
クラブにとっても、Jリーグにとってもスタジアムは重要
ライセンス制度も含めて、クラブにとってスタジアムビジネスが経営上重要になってきている
Jリーグは、リーグの価値を高めるという意味で臨場感を重視している
 
また、地域のシンボルとしてスタジアムが位置づけられるようになってきた
文化・経済両面で求心力になる
 
街スタ=街中にスタジアムが出来るケース
スタ街=スタジアムを核にして街が出来ていくケース


"スタ街"の代表例とも言えるのが埼玉スタジアム
スタジアムの最寄り駅でもある浦和美園駅はスタジアム建設にあわせて計画されました。
現在もスタジアム周辺の道路開発が進んでいると聞きます

"街スタ"の代表例は、現在予定されている北九州のスタジアムでしょうか。
新幹線も停車するJR小倉駅から徒歩7分というロケーションです


どちらが理想的なのでしょうか?

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上記はあくまで一般論ですが、おおよそこういった特性を持っていると思われます。
どちらにも利点はあり、どちらにも課題はあるといったところ


ではJリーグの理想は"街スタ"と"スタ街"のいずれにあるのか。
スタジアムの未来に深く関わっているであろう傍士銑太氏は次のようなコラムを書いています

(75)街中スタジアム
《百年構想のある風景 2014年5月31日閲覧》

 “まちなか”は、車中心社会になって「アクセス」(交通の便)の良い郊外型ショッピングセンターに人が流れたが、人口減少・高齢化社会を迎えるいま、人々の視線は、再び人間中心社会に適した「ロケーション」(立地条件)の良い街中に回帰しはじめた。先だって、関西を代表する交通ターミナルの大阪駅北地区に、大規模球技場誘致を検討する協議会が、自治体や財界のトップを交えて発足した。ここは、一日に250万人もの人々が行き交う絶好の場所である。北九州や宇都宮にも具体的な動きが見られる。いよいよ、我が国でも、「街中スタジアム」の時代が到来する。
 Jリーグスタジアム観戦者調査2009によれば、過半は家族連れ。郊外にある埼玉スタジアムに5万人、新潟ビッグスワンに4万人、大分ビッグアイに2万人もの人々が、試合のたびに集まって来る。もしも、これらが街中に在ったらどうだろうかと考えると、地方都市が悩んでいるまちなか復活の“青い鳥”は、意外と身近なところに隠れている。


このように、明らかに"スタ街"ではなく、"街スタ"を推しています


③スタジアムの理想像は各地域にある
Jリーグの理想的なスタジアム像を"街スタ"とすると新たに2つの疑問点が発生します。
まず、なぜスタジアムの未来では都市再開発というものが書かれているのか

これはおそらく、スタジアム整備の可能性を閉ざさないためです

Jリーグはここ数年、スタジアムの整備を強く訴え、働きかけています。
あくまでも理想は"街スタ"ではあるものの、土地の確保や地域特有の事情などの問題から全ての地域において"街スタ"を実現することは出来ません

地域によっては"街スタ"よりも"スタ街"の方が現実的で理想的な場合があるかもしれない。
だから、"スタ街"にも含みを持たせているのでしょう


もう1つの疑問点は多機能複合型【スタジアム・ビジネス】 Economyです

多機能複合型【スタジアム・ビジネス】 Economy
Jリーグニュース特別版 スタジアムの未来 2014年5月31日閲覧》

「これからはさまざまな機能がないと、サッカーだけでは運営できない」。バーゼルのスタジアム経営者であるクリスティアン・ケルン社長は断言した。ホームの公式試合は1シーズンで30日弱。多機能複合型ならば、年間を通して市民生活と接点を保ち、スポーツ以外で稼働率を高めて施設全体の収益を上げることができる。また、周囲の施設と複合的な関係を持つこともできる。
 
複合機能の実例〕
・ショッピングセンター・レストラン・ホテル・オフィス・ホームセンター・介護付き高齢者用集合住宅・教育センター・職業専門学校・フィットネスクラブ・見本市


Jリーグが訴える多機能複合型とは、括弧で書かれているようにビジネスに係るもの
これは赤字運営を理由に建設に消極的になっている行政へのアピールもあるでしょう。
あるいは都市公園法の縛りから解き放たれたいという意図もあるかもしれません

しかし、"街スタ"を考える中でそう簡単にスタジアム・ビジネスが成り立つでしょうか。
中心市街地にはホテルや商業施設がすでに存在している場合が多いことでしょう。
周辺地域と顧客の奪い合いをすることが本当に"まちづくり"に寄与すると言えるのか

また、複合機能の実例に挙がっているものの多くは大規模整備。
中心市街地にそこまで大きな土地が転がっているものかという点も疑問です

Jリーグの訴える多機能複合型はどちらかというと"スタ街"寄りの考え方だと言えます。
"街スタ"が目指すべきは周辺施設と連携してシナジー効果を生み出すことでしょう


スタジアムの未来はヨーロッパのスタジアム視察を元に作成されているもの。
その影響で、ヨーロッパと同じようなスタジアムを作るべきなのかという誤解がままあります

スタジアムの未来はJリーグが理想とするスタジアム像を描いています。
しかし、スタジアムの理想像は画一的なものではありません。
各地域ごとに、時代ごとに理想とするスタジアム像というものが存在するはず


結論をまとめておきましょう

スタジアムの未来は"スタジアムは、まちづくり"の教本です。
しかし、スタジアムの未来は全国で画一的に適用できるとは限りません。
スタジアムの未来を参考にしつつ、各地域ごとの理想のスタジアム像を探すべき

その際に"まちづくり"の視点を忘れてはならない、ということです



④終わりに=「参画と三角」
全3回にわたって"スタジアムは、街づくり"という標語をテーマに進めてきました。
言葉の定義から始めたため、かなり抽象論となってしまったことをお詫びします

今回のテーマにはかなり苦戦しました。
本来は第4回シンポジウムのレポートでしたが、文量から独立せざるを得ませんでした。
構想から3ヶ月以上かかってしまいましたが、時間をかけただけあって手応えはありました

スタジアムを訴える上で"スタジアムは、まちづくり"という視点は非常に重要です。
しかし、これまでJリーグサンフレッチェも十分な説明ができているとは言えません。
乱筆ではありましたが、その道筋をある程度示せたのではないかと思っています

全3回で述べたかったことは次の5点に集約されます

  • 目指すべきは"スタジアムは、街づくり"ではなく"スタジアムは、まちづくり"
  • "スタジアムは、まちづくり"は事実ではなく、目標・コンセプトである
  • ソフト面の"まちづくり"には不断の努力が欠かせない
  • ハード面の"まちづくり"はスタジアムの未来を参考にするべき
  • ただし、スタジアムの理想像は各地域によって異なるため模索するべし


なぜ"スタジアムは、まちづくり"が重要なのかについては深く掘り下げていません。
それはまた機会があれば触れてみたいと思っています


さて、"スタジアムは、まちづくり"というのは非常に規模が大きな話です。
お金をかければできるものでもなく、時間をかければできるものでもありません

1-2 まちづくりの定義と10の原則
まちづくりの方法 3ページ 日本建築学会》

定義:まちづくりとは、地域社会に存在する資源を基礎として、多様な主体が連携・協力して、身近な居住環境を漸進的に改善し、まちの活力と魅力を高め、「生活の質の向上」を実現するための一連の持続的な活動である。


ここまで強調してきませんでしたが"多様な主体が連携・協力"も重要なポイントです

川崎の魅力を市民に伝えるために
Jリーグニュースプラス vol.10 2014年5月31日閲覧》

こうした体制を川崎市が敷いたのには、行政とクラブが共通の目的を持っていることが大きい。市役所のシティセールス・広報室の役割は川崎市の魅力を広く市民に知ってもらい、自分たちの住むまちに誇りを持ってもらうことである。フロンターレのベクトルもまったく同じ。市民が川崎のまちを好きになり誇りを持つようになれば、そのまちにあるJクラブのことも好きになってくれるという考え方が根底にある。市とクラブは「もっと川崎のまちを好きになってもらいたい」という同じ理念を持つパートナーなのである。


川崎の事例にもあるように、行政の協力は"まちづくり"に必要なものです。
しかし、なんでもかんでも行政頼りでは"まちづくり"は実現しません

我々、市民・県民がその"まち"を自分たちの"まち"だと自覚すること。
そして、その"まち"をより良くしようとする意識が絶対に欠かせません

そしてその範囲はサッカーにとどまるものだけではありません。
サンフレッチェ広島を、サッカーを、ひいては広島という"まち"の価値を、高めること。
そのためにどうすればいいか個人個人が主体となって考えないといけません

自分自身の「まち」
まちづくりの発想 50ページ 田村明》

 まちづくりを真剣に考えてゆくと、一見、生活に直接関係なく他人事に見える土地問題、産業立地、都市配置、国土計画、幹線交通、資源利用のあり方なども、実は身近な生活にかかわりのある重要な基礎的問題であることが分かってくる。小さな単位でも、人間の側から具体的に関連を追って考えるとき、地球や国土、社会全体が分かってくるはずである。
 都市の時代は、問題を複雑にし、地球的規模にまで広げたが、その全体を見る糸口が、自分たちの生活している「まち」になる。

 



最後に、浦和レッズの経営にも携わられていた藤口光紀氏(現広島経済大学教授)が講演で話されていた内容を紹介しておきます

スポーツによる地域活性化
《中国総研研究会 2013年11月20日 中国地方総合研究センター》

 スポーツで"まちづくり"。1つ提案します、キーワード。ちょっと洒落かもしれませんが、「参画と三角」です。これはキーです。要するに参加じゃないんです。参画することに意味があるんです。なんでもそうですけども、みんな人ごとになっちゃうんです。そうじゃなくて、自分もなんでもいいからこれをやりますということを、後援会とかサポーターからもあるんですけど、サポーターなんか自分から計画して色んなことをしています。自らが計画する、それがすごく大事なんですね。これがないと本当のいい"まちづくり"はできません。それと三角。これはやっぱり、クラブ、行政、市民、これがうまくバランスがとれないといけない。サポーターとクラブだけではいけない、自治体とクラブだけではいけない。そこにもう1つ入ってくることがすごく大事です。これはもうサッカーのプレイでも一緒です。2人の関係よりも3人の関係になれば攻撃のバリエーションができます。ディフェンスも厚くなります。



「参画と三角」

これをしっかりと胸に刻みつけて参画していきたいと思います。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました