C・ロナウドも標的に…W杯史に残る『ビデオ判定』トラブル多発日 ロシアW杯VAR全事例集3

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VAR介入で獲得したPKを外して悔しがるFWクリスティアーノ・ロナウド
 21回目のW杯ロシア大会は、残すところ決勝戦のみとなった。今大会から導入された『ビデオ・アシスタント・レフェリー』は計20回の介入がみられ、適切な運用の基準とされる「3試合に1回」を下回っており、上々の成果を挙げていると言えそうだ。だが、1日に5度もの介入が行われた“乱発日”もあった。全事例集第3弾ではそれらを振り返ってみたい。(【第1弾】【第2弾】)

 VARはビデオモニターを見ながら試合を追い、必要に応じて主審に助言を行う審判のこと。一般には『ビデオ判定』とも呼ばれる。今大会では、モスクワの別会場に集まった国際主審4人が担当し、①得点②PK判定③一発退場④人違いの4要素について、「明白かつ確実な誤り」があった場合にのみ判定に介入することになっている。

 5度の介入が見られたのは大会12日目の6月25日。グループリーグ第3節の1日目が行われ、突破争いが佳境を迎えた日だった。1つの判定がさらに重大な影響を及ぼすため、レフェリーたちもやや神経質になっている雰囲気が感じられた。もっとも、荒れ模様を見せたのはこの一日だけ。その後はきちんと基準が統一されたようで、今後のW杯でも同様のパニックはなかなかないかもしれない。

【事例1】大会12日目 エジプトvsサウジアラビア(②PK判定)
 波乱の一日が幕を開けたのは、すでに敗退が決まっていた両者の対戦だった。前半アディショナルタイム、サウジアラビア代表MFサルマン・アル・ファラジが縦にパスを出し、エジプト代表DFアリ・ガブルと競り合ったMFファハド・アル・ムワッラドがPA内で転倒した。

 PA内でのファウルの有無が問題となる“よくある”ケース。主審は接触があった直後にファウルを告げる笛を吹き、ペナルティースポットを指差した。だが、ここからが長かった。エジプトの選手たちが主審を取り囲み、プレーが止まったままVARとのコミュニケーションが始まった。

 結局、トランシーバー上の会話では結論が出ず、主審は約2分後になってようやくピッチ脇モニターでの『オンフィールド・レビュー』を開始。接触の場面の入念に確認しつつ、VARとのやり取りではときおり声を荒立てる様子を見せた。結果的に判定は覆らず、PKで試合は再開。5分間弱にわたって試合が止まったのみで、不要なVARの介入だったと言える。

 また、この場面ではオンフィールド・レビューが行われた後、主審はアリ・ガブルにイエローカードを提示した。本来であれば、警告はVAR介入の対象ではないため、ビデオ判定の結果として警告が行われることはないのが原則。だが規則では、介入の最中に「誰の目にも明らか」な事由があった場合は、警告を下したり、取り消したりできるよう定められており、これはルール上認められた判定だ。

【事例2】大会12日目 イランvsポルトガル(②PK判定)
 互いに突破の可能性を残したポルトガル代表イラン代表の一戦では、W杯史上初となる複数回の介入があり、90分間で3回におよんだ。最初のケースは後半5分、ポルトガルFWクリスティアーノ・ロナウドがPA内でカットインすると、相手選手と交錯して転倒。主審は目の前で見ていたが、いったんはプレーをそのまま流した。

 このパターンも今大会でよく見られたもの。VARの助言を受けた主審はオンフィールド・レビューを行い、判定を覆してポルトガルにPKを与えた。なお、キッカーはC・ロナウド。初戦ではスペイン相手にきっちり沈めたが、右に蹴ったボールはGKアリレザ・ベイランバンドにキャッチされ、VARで得られた正しい判定を結果に生かすことはできなかった。

【事例3】大会12日目 イランvsポルトガル(③一発退場)
 事例2から約30分後、VARが狙いをつけたのはまたしてもポルトガルのエースだった。相手スローインにプレッシャーをかけたC・ロナウドはDFモルテザ・プラリガンジとの小競り合いでヒジ打ちをお見舞い。主審はそのシーンを見ていなかったが、VARが使用する会場内カメラにはしっかりとその場面が映し出されていた。

 一発退場の可能性があるプレーだったため、これもVARの介入対象。助言を受けた主審はピッチ脇のモニターへ移動した。早送りやスローモーション、またはアップのアングルでその場面を確認すると、C・ロナウドが腕で相手をなぎ払った際にヒジが顔面に当たっているように思われた。だが、主審はイエローカードを提示。C・ロナウドにとっては命拾いの判定となった。

【事例4】大会12日目 イランvsポルトガル(②PK判定)
 3回目の介入があったのは後半アディショナルタイム。右サイドのクロスに反応したイランFWサルダル・アズムンがヘディングで中央に折り返した場面だった。ボールは空中戦を競り合ったDFセドリック・ソアレスの手に当たったように見え、1点を追う状況のイラン選手たちが猛抗議で主審を取り囲んだ。

 主審は耳元のデバイスに手を当て、VARとコミュニケーションを取るが、なかなか結論は出されず。約1分半後、ようやくピッチ脇のモニターでオンフィールド・レビューが始まり、該当場面を注意深く見つめた。映像ではセドリックの手はジャンプの予備動作に見え、故意のハンドリングには思えなかったが、主審は判定を覆してイランにPKを与えた。

 このPKをFWカリム・アンサリファルドが落ち着いて決め、試合は1-1で終了。この結果により、ポルトガルは他会場のスペインを勝ち点で並び、総得点の差で2位転落の憂き目に遭った。明暗を分けたのはVARがもたらした微妙な判定だったため、後味の悪さが目立った。

【事例5】大会12日目 スペインvsモロッコ(①得点)
 同じグループBのライバルが事例4に揺れる中、同時刻にキックオフしたスペイン代表モロッコ代表戦も同様にVARが勝敗を分けた。W杯の歴史上で初めて『①得点』に関する介入があり、スペインのゴールが認められたのだ。もしこの得点が認められていなければ、3位イランと勝ち点で並ぶという危険なシチュエーションであった。

 状況としてはモロッコの1点リードで迎えた後半アディショナルタイム1分。右サイドを駆け上がったDFダニエル・カルバハルが中央に低いクロスを送ると、FWイアゴ・アスパスがトリッキーな後ろ足キックでネットを揺らした。副審はすぐさま旗を上げ、主審はオフサイドを宣告。その時点でゴールが取り消されたかと思われた。

 だが、ここで活躍したのは「バーチャル・オフサイドライン・システム」という新技術。3D描像技術を使って仮想のオフサイドラインを映像上に表示し、VARの助けにするという仕組みだ。オフサイドは『あり』か『なし』かで明確な線引きができるため、ここでは主審はピッチ脇のモニターでオンフィールド・レビューをすることなく判定を修正することができた。

 この日に行われた5つの介入事例を振り返ると、1と4は介入が行われるべきだったのかを問われる事例。5も本来であればVARの助言を待ってからオフサイドを告げるのが望ましいとされているため、そもそも副審に大きなジャッジミスがあったと言える。また、C・ロナウドが関わった2と3も介入と結果の両面で後味の悪い結末になり、全体的にVAR運用の難しさが露呈してしまう一日となった。

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