第14回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)【終】

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ついにクラブライセンス制度シリーズの最終回。
全部で14回と長くなりましたので、前半でクラブライセンス制度を簡単にまとめます。

後半で総括と参考文献を示して本シリーズを締めくくりたいと思います。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準(35条)、各種基準の小括
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について
第14回クラブライセンス制度の全体像、おわりに



[Ⅰ]クラブライセンス制度の全体像

第1回~第13回で述べたことの繰り返しですが、全体像を再度確認しましょう。

Jリーグクラブライセンス制度が導入されたのは、Jリーグ全体の水準向上もありますが、最大の理由はAFCライセンス(ACL参加資格)の要件を充足するため


https://lh3.googleusercontent.com/g3Qu1Q1YR0kSxQayZRiKf2na5SzA5iNSrnpBXt_SYL81o_frx8nDmNPG8ILCAdoV_3Z3_BE-cEsYZ5EEn9CCtjYhoWEQJJFA8OtVpRcaKsXvZTi_bWL4vPyCh8duUhi-Zbgvy1A_wg=w1335-h950-no
JFA 2010年度第2回理事会 協議事項9 関連資料No.7 2頁より》


そのため、Jライセンスを取得すればAFCライセンスが自動的に付与されます。

JライセンスとはJ1ライセンスJ2ライセンスをいいます。
J3の参加資格であるJ3ライセンスJ3規則に定められた別の枠組みです。


Jライセンス取得のためには、ライセンス申請者がコアプロセスをクリアする必要があります。
コアプロセスとは、ライセンスの申請、審査、決定、交付という手続きのこと。


https://lh3.googleusercontent.com/Fd0ARLTNzA8ZP4z_GL-_6eQUa5dh7ud7pXT4ZS0r9eWhokEqLao0wqBiKLaZln1IKGC1eWJcpz3eKOgxKdB1M5liBMu5ah9nrPwilQvLsMbZ0rYrIt7BNg-itJRJBVeX8GfttC2K2Q=w672-h950-no
Jリーグクラブライセンス交付規則 別紙1より》


その審査においては5つの基準をもとに判定が行われます。

また、5つの基準には、必ず達成しなければならないA等級基準、達成しないと制裁が科される(交付は妨げない)B等級基準、努力目標のC等級基準という3段階が存在します。

A等級基準を全て充足しなければライセンスは交付されません。


https://lh3.googleusercontent.com/6iIqBP-0iRgizBI1gv1ieDAmho_I6O--o__a_kqaX9fuxEdZUJ1JSWcTbWWFYDqHTnayWqXY5tX68QFglLJyqO1jcISDDygpLHvj6fC1xS-Q-t10jrh8VTkBjB5rZovGAqumJVgCqg=w960-h720-no


5つの基準の中でも特に重要なのは、三期連続赤字と債務超過を禁止している財務基準と、スタジアムのキャパシティ・屋根・トイレについて規定している施設基準です。

なお、JライセンスにはJ1ライセンスJ2ライセンスがありますが、これらを分けるのは(現状)施設基準のスタジアムのキャパシティに関する判定だけです。

5つの基準には、AFC規則にはないJリーグ独自の判定項目が存在しており(三期連続赤字、債務超過、屋根、トイレなど)、原則として交付規則の方が厳しい内容となっています。


ライセンスの審査が終われば、FIBによるライセンス決定会議が開催されます。
ライセンス決定会議では、次の5種類の決定が下されることになります。

  • ライセンスの交付
  • ライセンスの不交付
  • 制裁付きのライセンス交付
  • 是正措置通達付きのライセンス交付
  • 条件付きのライセンス交付


ここでいう制裁は、B等級基準未充足の場合に科されるもの。
また、是正措置通達はクラブ経営上努力すべき内容に関するもの。
条件付きのライセンス交付の内容は条件が課されたクラブによってまちまちです。

ライセンス不交付または制裁付き交付に不服な場合などには上訴することも可能です。


以上がクラブライセンス制度の大まかな概要です。



[Ⅱ]おわりに

本シリーズの目的は、交付規則を通してクラブライセンス制度の全体像を掴むことでした。
全14回という長編になってしまいましたが、ある程度達成できたと思っています。


本シリーズで目指したポイントがいくつかあります。

第一に、目次にもある通り、交付規則にある大半の条文を取り扱うことです*1
重要性の低い項目まで手は回りませんでしたが、概ねカバーできたのではないでしょうか。


第二に、改正のあった項目をできる限り紹介しようと考えました。

AFC規則の改正や、Jリーグを取り巻く環境の変化(ソーシャル・フェアプレーや熊本地震)によってクラブライセンス制度は毎年アップデートされています

次表は、クラブライセンス制度導入時と現在との項目数比較です。


https://lh3.googleusercontent.com/AJJqbkcgSbqwM5No6MFVrWtW2JCI5ooaJqOHPaRARZ6JzNtqmUw6eION8CHVyLu29GQo4fFuBfOH1PQJg4Y1CdrqHODTjdD7TTmW-Vk7x6mQPyy4uw7gGbnIUsTG_OlXNnzMYg=w960-h720-no


サッカークラブの水準向上を目的としている以上、項目数が減少するのは考えにくいところ。
したがって、今後も基準は増えていく傾向にあるのではないでしょうか。

脚注で紹介する部分も多かったですが、こういった改正項目にも概ね言及できたと思います。


第三に、条文の解説だけではなく具体的事例(制裁事例など)も取り入れました。
2012年に投稿した前シリーズとの最大の違いはこの点です。

クラブライセンス制度の運用方針についても、ある程度確認することができたと思います。


以上のポイントを意識しながら仕上げましたので、2017年現在で最も詳しいクラブライセンス制度解説シリーズになったのではないかと自負しています。


他方で、本シリーズでできなかったこともありました。

その一つが、FC岐阜今西和男氏に関する事例を取り上げること。

本件の詳細については木村元彦氏の『徳は孤ならず』をご覧頂けたらと思います。
木村元彦氏の「徳は孤ならず」はJリーグファンなら是非とも一読するべきものです。


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この内容について、読んだ人によって受け止め方は異なるかもしれません。

ただ、この内容について触れるのであれば、第11回で指摘した制裁に関する問題点とは異なり、クラブライセンス制度の制度設計そのものに焦点を当てる必要があります。

それをクラブライセンス制度の解説で取り扱うことはふさわしくないのではないか。
そのような理由から本シリーズでは詳しく触れていません。


しかし、現実にクラブライセンス制度は完璧なものとは言えません。
それは青影宜典クラブライセンスマネージャーも認めているところです。

Jリーグクラブライセンス制度運用のいま
フットボール批評14巻 2016年11月7日発行 87頁》


青影


当然この件にかかわらず、クラブライセンス制度そのものが、いつの時代でも100点満点の完璧な制度だとは僕は責任を持って言えません。先程の運用の面でも申し上げた通り、年度毎によって当然時流に合わせた対応が必要です。だからこの制度、この仕組み自体はやっぱり見直さないといけない、というような議論があるならば、それは真摯に拝聴した上で、議論した上で、また新しい改革を進めていくべきじゃないかという風に私個人は思っています。


クラブライセンス制度の抱える問題点のような視点から分析・検討することも有益なこと。
あるいは愛するクラブが今どういう状況に置かれているか知ることも重要なことでしょう。

本シリーズがそういった取り組みの一助になれば幸いです。


最後は簡単なまとめ方になってしまいましたが本シリーズは以上で終わりです。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。



[Ⅲ]参考文献

最後に、本シリーズにおいて参考・参照した文献を以下に列挙しておきます。
ただし、リンク切れを起こしていろ場合はInternet Archiveに置き換えています。

◆新聞
◆その他のウェブサイト



*1:本シリーズで取り扱っていないのは、交付規則3条、5条、31条~32条、38条~39条、42条~43条。内容については割愛する。

第13回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)

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今回取り扱うのは(本題から少し逸れますが)J3クラブライセンス交付規則です。

まず、2014年創設のJ3リーグ参加要件として設けられたJ3規則を簡単にチェック。
続いて交付規則との違いや運用事例を確認したいと思います。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条)
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について
第14回クラブライセンス制度の全体像、おわりに



[Ⅰ]J3クラブライセンス交付規則の趣旨

本筋から外れるのでJ3リーグ創設の背景について詳しく説明はしませんが*1J3規則が誕生した背景は重要なので、そこだけピックアップしておきます。

J3規則の誕生した背景は、端的に言うとJ2ライセンス取得のための前準備
というのも、J3は「J2昇格を目指すクラブのリーグ」と位置づけられていました。


https://lh3.googleusercontent.com/L0d6FhfxDpddHonlOUVuDZ-daV9LRRBEclpU-ix3G-44A-l6-hv2p8WhhCxN4AENUL5xofgLPNKwKhUp0NrrYIXmUb0ryEgEElgfo9eoEav8DIRGC9v8Yk7ZQyWYZl2J_sOKVQ=w1299-h974-no
《「Jリーグディビジョン3(J3)」の設立について 20頁より》


本シリーズで確認してきたように、J2昇格のためにはJライセンスの取得が必須です。
しかし、JFLのクラブにクラブライセンス制度をいきなり押しつけるのはハードルが高い。

そこで、交付規則ほど厳しいものではないJ3規則をクッションとして挟むことにより、クラブライセンス制度を体感してもらおうというような趣旨でJ3規則は導入されました。

Ⅱ.J3リーグ参加への手続き
Jリーグ入会(J3リーグ参加)の手引き【新たに入会を目指すクラブ向け】 11頁》


【J3クラブライセンスとJ1・J2クラブライセンス制度との違い】


「J3クラブライセンス交付規則」は、J3リーグへの参加を希望するクラブに対し、Jリーグが独自に、J3クラブとして最低限必要とされる条件を示したものです。従って、当該規則は「Jリーグクラブライセンス(J1クラブライセンス・J2クラブライセンス)」と連動しているものではなく、アジアサッカー連盟が定める「AFCクラブライセンス交付規則」とは独立したものです。しかし、J3に参加するクラブが将来的にはJ2昇格を目指すことに鑑み、「J3クラブライセンス交付規則」は、J2クラブライセンスの構成をある程度意識できるようなレベルに設定しています。これにより、J3に参加するクラブが、J2昇格に向けた準備がより円滑に進められると考えています。

[Ⅱ]J3クラブライセンス交付規則の特徴

それではJ3規則の具体的な中身について確認していきましょう。
ただ単に条文を見ていても仕方がないので交付規則との違いを中心に進めていきます。

まず、交付規則との大きな違いはライセンス申請者です。

J3規則 第3条〔申 請〕


(1) J3ライセンスの審査の申請日において、以下のいずれかの地位にあるクラブのみが、J3ライセンスの申請者(以下「J3ライセンス申請クラブ」という)となり得る。


① J1クラブ
② J2クラブ
③ J3クラブ
日本フットボールリーグ(JFL)に所属するJリーグ百年構想クラブ。ただし、J3ライセンスの審査の申請日の前年の11月30日までに、「Jリーグ百年構想クラブ規程」第5条第1項に定める申請を行っている百年構想クラブに限る。


このように、J1・J2・J3クラブだけでなく、JFLに所属するJリーグ百年構想クラブも対象。
Jリーグ百年構想クラブというのは「Jリーグ準加盟クラブ」の新名称みたいなものです*2

Jリーグ百年構想クラブがライセンス申請者になるのはJ3規則の趣旨を考えれば当然のこと。
他方で、J1クラブとJ2クラブが対象となるのは少し不思議に感じる人もいるかもしれません。

J1・J2クラブが対象となっている理由は、J3規則3条3項に示されています。

J3規則 第3条〔申 請〕


(2) J3ライセンスの交付を受けようとするクラブは、所定の手続きにより、原則としてJ3ライセンスの対象となるシーズン(以下「対象シーズン」という)の前年6月30日までにJ3ライセンスの交付を受けるための審査の申請をしなければならない。


(3) 前項の規定にかかわらず、Jリーグクラブライセンス交付規則に基づき、そのライセンス申請締切日までにJ1またはJ2のクラブライセンスの申請を行ったものの、いずれのクラブライセンスについてもFIB(クラブライセンス交付第一審機関)またはAB(クラブライセンス交付上訴機関)から交付決定を受けられなかったクラブは、対象シーズンについて前項の申請を行っていたものとみなす。ただし、Jリーグクラブライセンス事務局から、追加でJ3ライセンスに関する申請書類の提出を求められる場合がある。


そもそも、J3リーグで戦うためにはJ3規則に基づいてJ3ライセンスを取得する必要があります。
J3ライセンスの交付申請はその年の6月30日が期限で、Jライセンスと同じスケジュール*3

つまり、J3ライセンスの交付申請手続きをしていなければ、Jライセンスの交付申請を行ったクラブがライセンス不交付となった際に、いきなりJFL以下に降格することになってしまいます。

Jリーグ:J3の参加資格を明文化
毎日新聞 2015年4月28日付》


一方で、J1、J2も含めたJリーグクラブが参加基準を満たせなかった場合でも、改善の見込みがあると理事会で認められればJ3に参加できることも定めた。該当したクラブには「勝ち点減」などの制裁が科せられる。大河正明常務理事は「Jクラブのセーフティーネットとして(J3を)活用する趣旨も含めた」と語った。


これはあまりにも酷なので救済措置的にJ3ライセンスの自動申請が認められているのです。


次に着目すべきはその審査方法でしょう。

J3規則 第5条〔審査方法〕


(1) 審査は第7条から第11 条までに定める各基準をすべて充足した場合に合格したものとする。審査に合格したJ3ライセンス申請クラブには、対象シーズンのJ3ライセンスが交付される。


(2) 前項の規定にかかわらず、理事会は、第7条から第11条までに定める基準のいずれかを充足しない場合であっても、対象シーズンのJ3リーグの安定開催に支障を及ぼさないと認められる場合には、J3ライセンスを交付することができる。かかる場合、理事会は、Jリーグ規約第142条第1項に定める制裁を合わせて審議決定するものとする。ただし、基準F.01第3項に定める基準が未充足であったJ3ライセンス申請クラブに対する制裁は、原則として、対象シーズンの勝点減(最大10点)とする。


このように、全ての基準充足がJ3ライセンス交付の原則的な条件となっています。
ただし、Jリーグ理事会に認められた場合にはライセンスが交付される可能性もあると。

この点も交付規則とは大きく異なる点でしょう。

[Ⅲ]J3クラブライセンス交付規則における各種基準

J3規則5条2項にあるように、F.01の第3項を満たさない場合は勝点減の制裁が科されます
では、その肝心のF.01の第3項は何かというと、次のような内容。

J3規則 F.01 年次財務諸表(監査済み)


(3) J3ライセンス申請クラブが以下のいずれかの状況である場合は、基準F.01 は満たさないものとする。


① 3期連続で当期純損失を計上した場合。
② ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合。
③ Jリーグからの指摘に基づき、過年度の決算の修正が必要となった場合において、過年度の決算を修正した結果、前2号に示す事態となった場合。


このように、F.01の第3項は交付規則とほぼ同じ内容で、三期連続赤字と債務超過の禁止です。

特定の制裁が明示されている一方で、ライセンスの交付までは否定していません。
基準未充足の場合はライセンスが交付されない交付規則よりも柔軟な運用と言えます。


このように、J3規則と交付規則は類似した基準が多く、いくつかの基準は緩和されています
交付規則とJ3規則との比較表がありましたので、こちらで確認してみましょう*4


https://lh3.googleusercontent.com/4fsEG3x3z9T1McCbUM4QgUYXb9S1uvxZuDrMdERgoJvaY66kfguNWGryTp66pW4BpoDXb4hdISrXGdJmOhTp0s_OO52xvNnYOY5VF0T8RmYFP6PPkGgFhEiDJP3CroVaR9nFRA=w1379-h975-no
JFA 2012年度第12回理事会 報告事項10 関連資料No.2 37頁より》

https://lh3.googleusercontent.com/0WYzFzt2geuvCZ6QtUR2AF_1_Lvk5O6R9NO5sPNT1vH4irf8bQcL6BFiS063OQwa6-rcWACb7lFrz91BNYkFzdanteKqkBXaqbalz6Wj_oREO8Q0saH-PKlGf0zOxY8HXbrU4A=w1379-h975-no
JFA 2012年度第12回理事会 報告事項10 関連資料No.2 38頁より》


上記のように、U-18、U-15、U-12、U-10のユースチームを持つという要件が、U-18、U-15、U-12のうちいずれか1チーム以上となっている点など条件が緩和された基準がいくつかあります。

中でも特徴的な違いがあるのは施設基準でしょう。
まず、ライセンス申請時にJクラブが頭を悩ませる屋根とトイレに関する基準がありません

また、スタジアムのキャパシティについてもJ1・J2ライセンスとは異なります。

J3規則 I.03 スタジアム:入場可能数


ホームスタジアムは、メインスタンドに椅子席があるものとし、その入場可能数は5,000人以上でなければならない。なお、ベンチシートは1席あたり45cm以上で計算を行うものとし、芝生席は、安全性等についてJリーグが検査し、特段の支障がないと認められる場合には、観客席とみなすことができる。


このように、5000人が基準となっており、芝生席も認められる場合があるのです。
それでも5000席以上の専有できるスタジアムを確保するのはハードルが高いようですが*5

[Ⅳ]J3クラブライセンス交付規則とJ2ライセンス

冒頭でも確認したように、J3規則は交付規則のチュートリアル的位置づけ。
しかし、財務基準などはいいとしても、施設基準をステップアップするのは至難の業です。

そのため、J3ライセンス取得クラブがJ2ライセンスの取得に苦しむケースが散見されます。


その代表例とも言えるのが鹿児島ユナイテッドのライセンス不交付でしょう。
ライセンス不交付はクラブライセンス制度が導入されてから初めてのことでした。

J2クラブライセンス審査結果について
鹿児島ユナイテッドFC 2016年9月28日付》


鹿児島ユナイテッドFCは、2017シーズンのJ2クラブライセンスの申請を行い審査を受けてまいりましたが、判定結果は『不交付』となりました。つまり今シーズンの成績に関わらず、来シーズンのJ2昇格はないということとなります。


今回Jリーグから示された不交付の理由は、クラブライセンス交付規則番号I.01とI.03を充足していないことにあります。


I.01は公認スタジアムのことで、クラブとスタジアム所有者とでJリーグ規約に定める要件を満たしたホームスタジアムにおいてホームゲームの80%以上を開催できることが書面で合意されていない状態です。I.03はスタジアムの入場可能数のことで、現在のホームスタジアムである鹿児島県立鴨池陸上競技場は、2020年の鹿児島国体に向けて段階的に改修工事を行っておりますが、2016年度からメインスタンドの全面改修および屋根部分の改修工事を行うこととなっており、シーズン中を通して観客席10,000人を常時満たすことが確約できない状態です。つまりJリーグ規約に定める要件を満たしたホームスタジアムが無い状態ということになります。


このように、不交付の理由は施設基準のキャパシティと専有に関する項目。
屋根やトイレはB等級基準なので制裁で済みますが、A等級基準未充足だと交付は不可能です。

先日、秋田も特別措置を目指しましたが、最終的に交付申請を断念しています。

スタジアム整備 約20人の委員で協議(秋田県)
秋田放送 2017年6月22日付》


佐竹知事は「仮に新しいスタジアムの建設計画が確定している場合には、J2の基準を満たしていない球技場であっても、簡易な改修によって完成までの時限的なライセンスを取得できないかについてクラブを通してJリーグ側と協議して参ります。」と述べています。

【質疑応答掲載】6.30 2018シーズンクラブライセンスの申請に関する記者会見を行いました
ブラウブリッツ秋田 2017年6月30日付》


結論からお話しすると、今季についても現段階ではJ2ライセンスの申請は出せず、J3ライセンスの申請で留まったことをご報告するとともに、来季のクラブライセンスの申請については、J2ライセンスを申請すること、すなわち、来季J2に向けた勝負をするシーズンとし、最短で2019シーズンにはJ2昇格を目指すことを合わせてご報告いたします。


このように、主に施設基準がJ2ライセンスの壁となっているのが現状です*6
また、第7回でも確認したように、スタジアムキャパシティの数字には特に根拠もありません。

たしかにスタジアムのキャパシティはクラブの経営体力にも直結します。
クラブライセンス制度の導入によって施設環境を整えるという趣旨も分かります。

【大河正明×西尾邦明】 観客へのもてなし向上第一 サッカースタジアム 意義どこに
朝日新聞デジタル 2013年6月3日付》


――観客席に3分の1以上の屋根をつけるクラブライセンスの基準を満たしていないスタジアムが多くあります


ガンバ大阪、北九州、長野では基本的に屋根付きのスタジアムをつくる方向になりました。徳島も防災上の理由から付けようとしている。京都、静岡、広島、沖縄でも議論が進んでいます。地下で潜行しているところもあります。


狙いはライセンスを通じてサッカー界全体がホスピタリティーを上げていくこと。Jリーグが発足したばかりのころは常緑の芝生、1万5千人のスタジアム、ナイター照明を、と言っていたんです。かつて、関西ではナイターができなかったし、天皇杯の決勝も枯れ芝。ちょっと高めの目標を掲げながら、少しずつ向上させていく。それはJリーグのクラブのため、そして一番は観客のためなんです。


ただ、クラブライセンス制度の導入によってキャパシティにも厳格さが求められるようになっている現状と*7AFC規則では求められていないという事実を踏まえると、スタジアムのキャパシティに係る基準はもう少し緩やかでもいいように思います(例えばB等級にするとか)。

この辺は、クラブライセンス制度によって全体の水準を上げるという趣旨と、「ふるいにかけるわけではない」という建前とのせめぎ合いなのかなと思います。


<今回のまとめ>

  • J3規則は、いくつかの項目で交付規則と比較して要件が緩和されている


それでは次回が最終回。よろしくお願いします。



*1:J3創設の背景に関する資料として、「Jリーグディビジョン3(J3)」の設立について《公益社団法人日本プロサッカーリーグ 2013年3月6日発表》、【J3構想の実態を探る】Jリーグ理事 大河正明氏に聞く、『J3』のアウトライン(前編)フットボールチャンネル 2013年7月13日付》、【J3構想の実態を探る】Jリーグ理事 大河正明氏に聞く、『J3』のアウトライン(後編)フットボールチャンネル 2013年7月14日付》、クラブの拡大とリーグ構造の変遷《Jリーグ.jp 2017年7月2日閲覧》、大東和美村井満Jリーグ再建計画』(日本経済新聞出版社、2014)150頁など。

*2:この辺の説明をすると長くなってしまうので本稿では詳しく取り扱わない。「Jリーグディビジョン3(J3)」の設立について《公益社団法人日本プロサッカーリーグ 2013年3月6日発表 23頁》。

*3:Jリーグクラブライセンス交付規則 別表1。

*4:なお、2013年の資料であるため現在の規定とは多少違いがある。具体的には次のようなものがあげられる。I.15「身体障がいのある観客」が追加されている。P.03「財務担当」について、「J3開幕までに担当者を置くこと」という宥恕規定が設けられた。P.06「広報担当」とP.07「事業担当」の兼任が認められるようになった。P.08「コンプライアンス・オフィサー」が追加された。

*5:みんなでつながり、みんなで創る!奈良を盛り上げる「奈良クラブ」奈良県 2016年5月31日付》。

*6:静岡県東部初のJリーグクラブ(下)スタジアム要件の壁静岡新聞アットエス 2016年11月20日付》。

*7:Jリーグ、ライセンス制13年導入、クラブ経営、厳しく審査、3年連続赤字で剥奪。《日本経済新聞 2011年5月31日37面》。

第12回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)

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補足説明回の最終回。
今回は上訴制度と取りこぼしたその他の改正項目ついて取り扱います。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条)
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について
第14回クラブライセンス制度の全体像、おわりに



[Ⅰ]上訴制度のアウトライン

まず1つ目のテーマは上訴についてです。

2017年シーズンライセンス交付時点で上訴申し立ては起きていません*1
しかし、今後生じる可能性はありますのでポイントを押さえておきたいと思います。


第4回と第5回で基本的なライセンス申請手続(コアプロセス)について確認をしました。

基本的に、ライセンス申請者が申請し、CLAが審査し、FIBが決定してJライセンスが交付されるのですが、各種基準を充足していない場合などに不交付の決定が下される場合もあります。

しかし、ライセンス申請者にとっては納得できない場合も出てき得るでしょう。
そのような場合に、FIBの決定に不服があるとして上訴することができるのです


Jライセンス決定に関する上訴フローを抽出すると次の通り*2
ABの役割等については第3回で説明していますので、そちらでご確認下さい。


https://lh3.googleusercontent.com/QtypaeZJk_u9gdKo9MPDa188RWTrMGYd5KrpBxNS4VyHj-LesWYoQNyCUU2LhvlDn0AsHmlBr5ZfAwDoOEAZdvv74h6MsK45Lc0PFzdF2N44Y_0eWcvv9uUl-O8UREd5viCERA_D9g=w960-h720-no
Jリーグクラブライセンス交付規則運用細則をもとに作成》


この手続き上の流れはコアプロセスと大きな違いはありません。
コアプロセスと上訴手続きとの大きな違いは、誰が申請(上訴)できるかという点

第3回で説明したように、Jライセンス申請はJ1・J2・J3クラブが可能だとされています。
一方、上訴権を有するのは交付規則26条2項に限定列挙されています。


https://lh3.googleusercontent.com/axljpp_fdmDbW4UwQoqw-XqrYE1sxB46QaL6j4y0Nn2YZFBoG4jZoG_183Rz6X00daAMa4VNEykXV-aqGKX6vgHs--IIdHUmP8I-1P7RT5MAd_bmQiddYLQdBE5_10RUTYJnZQ=w960-h720-no
Jリーグクラブライセンス交付規則をもとに作成》


このように、上訴権があるのはライセンス申請者、ライセンシー、LMで一定の者。
ライセンス申請者・ライセンシーとLMとで異なる点はただ1点。

すなわち、ライセンス申請者・ライセンシーはJライセンスが不交付・取消となった場合に上訴権があり、逆にLMはJライセンス保有が認められた場合に上訴権を有するという点です。


上訴権を有するライセンス申請者に変更はありませんが、クラブライセンス制度導入時には「Jライセンスの剥奪の決定を受けた場合におけるライセンシー」と「Jライセンスの交付の決定がなされた場合におけるLM」以外のライセンシー・LMは上訴権を有していませんでした*3

全体の整合性をとるためかもしれませんが、LMによる上訴権がかなり拡大されています。

[Ⅱ]上訴制度の特徴

続いて上訴制度の中身についていくつか確認をしておきたいと思います。
最も重要なのが、原則としてFIBの決定より上訴人に不利益なものにはできない点。

交付規則 第27条〔上訴〕


(3) CLAは、審問期日終了後、ABによるJライセンス決定会議を開催する。ABは、ライセンス申請者に対するJライセンス交付の可否、制裁の有無・内容について、10月16日までに決定する。なお、ABの決定は、FIBの決定より上訴人に不利益なものであってはならない。ただし、LMとライセンス申請者またはライセンシーの双方が上訴している場合はこの限りでない。


つまり、ライセンシーが制裁付き交付を受けたことに対して制裁付きであることを不服として上訴した場合に、審問を受けてJライセンス不交付となることはないということです。

ただ、上訴人がLMである場合に「不利益」が何を指すのかは不明。
上訴申立書に、「上訴の趣旨」を記述するのでそこで判断するのかもしれません*4


次に重要なのが、上訴人は上訴に際して新たな証拠を提出することはできないこと。

交付規則 第27条〔上訴〕


(4) ABによるJライセンス決定会議では、FIBによる決定のみを審査対象とし、審査は、FIBに提出されたライセンス申請書類、FIB決定書およびABに提出された上訴申立書ならびにFIBおよびABの審問期日において顕れた一切の記録のみに基づいて行われる。上訴人は、ABに対して新たな証拠を提出することはできない。


あくまでもFIBに提出されたライセンス申請書類を基礎として審査を受けることになります。
後出しを認めるとFIBの存在意義に関わりますし(FIBによる第1審を捨てるという選択肢が生じる)、そんな証拠があるなら最初の審査を受ける段階で出しておけという話でしょう。


上訴制度とコアプロセスとの違いに目を向けると、下記の2点が挙げられます。

交付規則 第27条〔上訴〕


(5) 上訴の申立てはいつでも取り下げることができる。上訴の申立てを取り下げた場合は、その時点でFIBの決定が確定するものとする。


(6) ライセンス申請者がABに上訴する場合は、上訴手数料として金10万円をJリーグに支払うものとし、当該手数料はいかなる理由があっても返却しない。


Jライセンスの申請手続きは一定の場合を除いて取り下げができません*5
一方で、上訴については取り下げが可能で、取り下げた場合はFIBの決定が確定します。

また、Jライセンスの申請には30万円の費用がかかりますが上訴は10万円*6
不利益防止規程と合わせて上訴のハードルは低めに設定されているようです。


また、FIBの決定にもABによる決定にも不服の場合、さらに上訴申し立てが可能です。

交付規則 第27条〔上訴〕


(9) 前項の規定に基づき上訴権を有する者は、AB決定書の受領日から21日以内に、CASに対して上訴申立てを行うことができ、上訴した場合には速やかにCLAに対して上訴の申立書の写しを送付する。当該期間内にCASに対する上訴がなされなかった場合、当該期間満了時にABの決定が確定する。当該上訴申立ては、ABの決定の効力を中断させる効果は有しないものとする。但し、CASは申立てに基づいてそのような中断させる効果を有する命令を行うことができる。

交付規則 第17条〔ABの権限および義務〕


(5) ABパネルの決定に対する不服の申立機関はローザンヌスポーツ仲裁裁判所(CAS)のみとし、裁判所その他の第三者に訴えることはできないものとする。


この制度はクラブライセンス制度導入時にはなかったものです。
当時の規定は次のとおり(なお、交付規則27条9項は当時存在していない)。

交付規則 第17条 〔ABの権限および義務〕*7


(5) ABパネルの決定は、最終的かつ拘束力のあるものであり、これに対するいかなる不服の申立ても許されないものとする。ローザンヌスポーツ仲裁裁判所(CAS)は、AFCの不服申立機関であって、クラブとAFC間の問題についてのみ管轄を有する。


もともとクラブライセンス制度上の最高決定機関はCASであると考えられていたようです*8


https://lh3.googleusercontent.com/s8I8yK6O9LYQRX6-M_BO_TXo7dA5PAiVJ5pTdvHUpPQaUZ9kjxUlRrvT5jWy1BlO_bA7etBkke53nZFzTjX4M9bUeOrpSuJv_BcMs1yj84vXGPrWgGDeEXzC3jm96dz_DHSJKA=w1120-h792-no
2010年度第2回理事会 協議事項9 関連資料No.7 2頁より》


しかし、蓋を開けるとCASに不服申し立てすることは認められない制度となっていました。
2016年12月7日の改正で、ようやくCASへの上訴が認められるようになったようです。

その他の改正点については割愛させて下さい*9



[Ⅲ]不可抗力の事態が生じた場合の取扱

最後は、クラブライセンス制度導入時から大きく変わった改正点についてです。

本シリーズではたびたび改正項目について言及してきました。
今回取り上げるのはその取りこぼし部分となります。

まず第一の重要な改正項目は不可抗力の事態が生じた場合の取扱い

交付規則 第40条〔不可抗力の事態が生じた場合の取扱〕


(1) 自然災害、戦争、テロ等の不可抗力により、ライセンス申請者もしくはライセンシーが第8章から第12章に定める各ライセンス基準を充足することができない可能性が生じた場合、Jリーグ理事会は当該ライセンス申請者もしくはライセンシーからの申請に基づき、FIB、ABが行うJライセンス交付可否の決定、第8条の制裁の決定、第23条3項のライセンス取消しもしくは制裁の決定にあたり、第8章から第12章に定める各ライセンス基準の一部を適用しない旨決定することができる。


内容自体は特に説明する必要もないでしょう。
災害などの不可抗力な事情が生じたことで各種基準を充足できなかった場合には、基準充足を一部免除する可能性を認めているもの。いわゆる宥恕規定です。

この交付規則40条は2016年12月7日改正で新たに盛り込まれました。
これは、2016年に起こった熊本地震が改正の契機になったそうです。

【解説】2017シーズンにおけるクラブライセンスの変更点とは?(3)新たに明文化された規定とは?
《Jウォッチャー 2017年2月20日付》


最後の一点。不可抗力の事態が発生した場合の取り扱いについてということで、記憶に新しいところですが、昨年熊本で大規模な震災が発生しました。それに伴ってロアッソ熊本に対してライセンスの基準を他のクラブと同じように適用本当に良いものなのだろうかという議論がありまして、その時の最終的な意思決定としましては理事会の方で震災の影響を受けて、例えばフィールドが棄損して債務超過になったとか、というような事態になったとしても、それが例外適用としてライセンス基準を充足しているという判断をさせていただいておりました。


【中略】


従前は第40条、本交付規則に定めのない事項については理事会が決定するということでした。このルールに基づいて昨年は対応させていただきましたが、よりクラブのみなさん、それから関係者の皆さんに理解を深めていただくために明文化ということで、今回、新たに規定の追加をしたということです。


実際問題として、熊本地震によってロアッソ熊本は大きな打撃を受けました。

ホームスタジアムは救援物資の集積や警察などの救援活動の拠点として活用され*10、安全上の確認が必要となったことからしばらく県外で試合開催せざるを得ず、7月3日のセレッソ大阪戦からようやく熊本でのホームゲーム開催が可能となりました*11

また、一時は練習場の使用もできないほどの状況だったこともあって、リーグ戦再開まで時間がかかり*12、必然的に増加した平日開催の影響で経営的に大きな負担がかかりました*13



【熊本ドキュメント第3弾】7.3 熊本vsC大阪 ~帰って来られる場所がある。ホームうまスタから、また一歩ずつ~
www.jleague.jp


このようなJクラブではどうしようもない、やむを得ない事情によって各種基準の充足が難しくなった場合にも厳格にライセンス審査を行うことは、第1回と第2回で確認したクラブライセンス制度の導入目的・制度趣旨に反するものです。

クラブライセンス制度導入直前に東日本大震災があったことを考えると、正直遅すぎるくらいではありますが、きちんと明文化されたことは評価されるべきだと思います。


この規定がどういった場合に適用されるかはその場その場で柔軟に運用するのでしょう。
基本的には自然災害によるものでしょうから、施設基準と財務基準が対象になりそうです。


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[Ⅳ]クラブライセンス申請システム

第二の重要な改正点はクラブライセンス申請システムが導入された点です。

交付規則 第12条〔CLA〕


(4) CLAは以下の業務を行う。
② 電子システムの運営と管理
③ ライセンス申請者に対する電子システム利用に関する研修および支援


ここでいう「電子システム」はクラブライセンス申請システムのことを指します*14

では、クラブライセンス申請システムとは何かというと、端的にいえば従来は紙媒体でやりとりしていたライセンス審査手続をオンライン上で完結させるシステムのこと。

Jリーグのクラブライセンス制度における申請手続きのペーパーレス化移行プロジェクトにおいてクライアント課題の解決をトータルに支援
《デロイト トーマツ グループ 2016年12月26日付》


クラブライセンス制度の運用は、今年で5年目を迎えました。過去4年間の申請手続きの中では、紙媒体を基本とした手続きを実施しておりましたが、1クラブ当り多いものでは大型ファイル1冊分に相当する書類の提出が必要であり、Jリーグ・クラブ双方にて事務手続きの効率化が課題でありました。


今回申請手続きをオンラインベースの申請に移行することにより、ほぼすべての申請情報をペーパーレス化することができました。導入初年度は、申請手続きを行うクラブ側では戸惑いもありましたが、丁寧に操作説明を行うことで、申請の流れや操作の理解につながり、従来と比べ申請手続きそのものの簡素化につながったと報告を受けております。導入初年度を無事に終了したことにより、2年目以降はJリーグ・クラブ双方にて更なる事務コスト削減につながると考えております。


開発手法としては、アジャイル開発を採用いただいたこともあり、非常に高いレベルでのUX(ユーザーエクスペリエンス)を実現することができました。何度もデロイトの担当者と仕様に関する協議を重ね、当初想定より多くの開発時間を費やしたことは事実ですが、試行を繰り返し行いながらの開発であったことが、結果としてエンドユーザーであるクラブ担当者からの評価につながったと考えております。


今回の開発そのものは、直接的な事務コストの削減に期待するとともに、申請手続きそのものの運用・管理が強化されることにつながり、クラブライセンス制度を運用する上ではなくてはならない基幹システムになると考えております。


実際にどういったシステムなのかは明らかにされていません。
ただ、現代において全ての処理を紙媒体で行うことの非効率性は明らか。
事務コストを削減した分、他のことにリソースを割けるはずです。

クラブライセンス制度導入から5年が経った中、大きな変化だったと思います。


<今回のまとめ>

  • FIB決定に不服がある場合、ライセンス申請者・ライセンシー・LMは上訴できる
  • ABの決定はFIBの決定よりも上訴人にとって不利益なものにできない
  • 上訴で争われるのはFIB決定そのものなので新証拠の提出はできない
  • 不可抗力の事態が生じた場合に備えて宥恕規定が新設された


次回はついに最終回。
Jリーグクラブライセンス交付規則を飛び出し、J3クラブライセンス制度を確認します。

最後までお付き合いいただければ幸いです。



*1:【解説】2017シーズンにおけるクラブライセンスの変更点とは?(3)新たに明文化された規定とは?《Jウォッチャー 2017年2月20日付》。

*2:あくまでも手続きが順調に進んだ場合。

*3:Jリーグクラブライセンス交付規則26条2項(2012年2月1日施行時)。

*4:Jリーグクラブライセンス交付規則運用細則 5-1(1)。

*5:Jリーグクラブライセンス交付規則24条2項。

*6:Jリーグクラブライセンス交付規則24条10項。

*7:Jリーグクラブライセンス交付規則(2012年2月1日施行時)。

*8:Jリーグ、ライセンス制13年導入、クラブ経営、厳しく審査、3年連続赤字で剥奪。《日本経済新聞 2011年5月31日37面》。

*9:改正内容について説明する。以前はFIB決定書を受領した非より2週間以内に上訴申し立てをすればよかったが、現在は7日いないとされている(交付規則26条3項)。

*10:うまスタ、休止長期化も 「安全性確認できず」《くまにちコム 2016年5月3日》。

*11:J2熊本、本拠地「うまスタ」使用は夏まで困難か《産経ニュース 2016年5月10日付》、7月からの「うまかな・よかなスタジアム」の使用についてロアッソ熊本 2016年6月17日付》、「うまかな・よかなスタジアム」の使用についてロアッソ熊本 2016年8月19日付》。

*12:ロアッソ熊本トップチームの練習についてロアッソ熊本 2016年4月15日付》。

*13:J2熊本、赤字転落へ震災で収支悪化《デイリースポーツ 2016年6月3日付》。

*14:Jリーグクラブライセンス交付規則・定義集。

第11回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)

元の記事へ移動

今回と次回は全体の補足説明回として、取りこぼしを拾っていきます。

第11回は、クラブライセンス制度上の制裁とライセンス交付後の違反行為について。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条)
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について
第14回クラブライセンス制度の全体像、おわりに



[Ⅰ]クラブライセンス制度上の制裁

第5回の解説において、B等級基準未充足による制裁(以下、「B等級制裁」という。)について説明を加えましたが、B等級制裁はクラブライセンス制度上の制裁の1つでしかありません。

交付規則にはB等級制裁以外に3つの制裁が設けられていますので、今回はその確認です。


1つ目が、交付規則8条2項に規定する制裁(以下、「Jリーグ規約制裁」という。)。
すなわち、ライセンシーまたはライセンス申請者の違反行為に対する制裁です。

交付規則 第8条 〔ライセンス制度上の制裁〕


(2) ライセンシーまたはライセンス申請者に本交付規則または「Jリーグクラブライセンス関連規程」の違反(虚偽の文書の提出、期限の無視、期限超過の懲罰、ライセンサーに対する非協力的なあらゆる行為を含むがこれらに限られない)があった場合、当該ライセンシーまたはライセンス申請者は、Jリーグ規約の定めに従って制裁を科されることがある。


このように、B等級制裁とは異なりJリーグ規約に基づいて科されるものだとされています。
では、Jリーグ規約制裁とB等級制裁とではどういった点に違いがあるのでしょうか。


https://lh3.googleusercontent.com/jUC1Rcn2MHWgJqEHsOQlVZuNUlIpxYoXhD59SYYq0YZpQx4mu4Sb4OgYMXdWBdVPlPAY9T362AurzgYXqlnF7NEqaCUXKcgeiLWghHZ9L_G9maYniN2OCyfhorAqvS9j_LcPoRSWBw=w960-h720-no


文字だけ並べても分かりにくいので画像を用意しました。
このように、いくつかの項目についてはB等級制裁とJリーグ規約制裁とで共通しています*1


異なっている点に目を向けると、B等級制裁には、「④特定の期限までにライセンス基準を満たす義務」など、当然ではありますがライセンスに関わる制裁が多く設けられています

また、「⑩補助金/賞金の保留」や「⑯移籍契約締結の禁止」といった制裁が、Jリーグ規約制裁になくて8条1項制裁にある点は、意外なものかもしれません。


これに対して、Jリーグ規約制裁には、「③中立地での試合の開催」や「⑥試合の没収」など特定の試合に対する制裁があることが特徴です(もっとも、クラブライセンス制度の趣旨からすると、これらの制裁がクラブライセンス制度関係で下されることはないでしょうが)。

そして、最も重い制裁である「⑩除名」はB等級制裁には存在していません。


続いて2つ目の制裁は、交付規則9条2項に規定されているAFCから科せられる制裁*2

交付規則 第9条 〔AFCによる検査〕


(2) AFC調査人は、Jリーグの立ち会いのもと、本交付規則およびAFC規則の遵守状況を調査するため、ライセンス申請者に対し抜き打ち検査を行うことができ、当該ライセンス申請者が本交付規則またはAFC規則に違反していると判断される場合には、その違反行為の性質と重大性に鑑み、当該ライセンス申請者はAFCから制裁を受けることがある。


交付規則9条2項ではどのような制裁が科されるか示されていませんので詳細は割愛*3


そして、最後の3つ目が交付規則23条3項に規定されている一定の事態が生じた場合にライセンシーに科せられる制裁(以下、「23条3項制裁」という。)です。

交付規則 第23条〔ライセンスの有効期間 / 取消し〕


(3) ライセンシーが以下のいずれかに該当する事態となった場合には、当該ライセンシーは、FIBまたはABの決定により、Jライセンスを取り消されまたは制裁を科され得る。


ここで一度、クラブライセンス制度上の制裁を整理しておきましょう。


https://lh3.googleusercontent.com/n3HRvq-TeZNVV06hgsYivgrikcOOoRTNKVbR0pUAI9f2u80Ird-Iss-L3KcGkUgMEw5syJGkZKbInXFG6NTZP6VQxo04f-l43PcQw2BuP0Ecl0G49SHgAJfJI2PwH-A29fMkYZacdw=w960-h720-no


ここまでの予備知識をもって次の内容を見ていきたいと思います。



[Ⅱ]愛媛FC粉飾決算問題

B等級制裁については、第5回で取り上げたように複数の事例が存在します。
一方、Jリーグ規約制裁についても事例が存在しますので、そちらを確認したいと思います。


2015年1月に愛媛FCは、経理担当者が決算を黒字化させる目的で、平成24年度および平成25年度の決算において不適切な会計処理を行っていたという事実を発表しました*4

愛媛FCの粉飾決算にJリーグ側が見解 第三者委員会を設置、さらなる原因追及へ
スポーツナビ 2015年1月16日付》


概要としましては、24年度と25年度の2年間にわたってそうした決算の修正と言いますか、不適切な会計処理を行って営業利益を黒字にしていたということです。一般的にこういうことが起きると、最悪のリスクとしては横領・着服等があることも考えられるわけですが、調査の結果、横領・着服の事実はないということが判明しております。


横領・着服などがなかったとしても、不正会計が行われたというのは大きな問題。
Jリーグは調査の結果、愛媛FCに対して次のような制裁を科しました*5

不適切な会計処理に対し 愛媛FCに制裁を決定
《Jリーグ.jp 2015年2月23日付》


3.制裁内容 :


(1)けん責 (始末書をとり、将来を戒める)


(2)制裁金300万円


4.制裁の理由 :以下の理由により、本件制裁を決定した。


(1)今回の違反行為は、「Jリーグ規約」第3条[遵守義務]第2項及び「Jリーグ規約」第23条[健全経営]第3項の違反に該当する。(詳細は下の6.参照)


(2)当該元経理担当者の上記行為により、「本来赤字決算により発生することはなかった税金の納付」が愛媛FC側に発生した。一方、約3年間にわたる内部統制機能の欠陥により本件を看過してきた同社の管理監督責任は重大である。


(3)外部の第三者による追加調査の結果、不適切な会計処理に至る経緯においては、同社役員等から当該元経理担当者への意図的な指示・命令はなく、従って組織の直接的関与はなかったと認められる。


(4)元経理担当者による横領・着服の事実は見受けられなかった。


(5)元経理担当者の動機や虚偽記載の方法に関しても、過度の悪質性は見受けられなかった。


(6)本件発生により、Jリーグクラブライセンス制度および他のJクラブの経営開示情報等の信頼性を著しく損ねる事態に至った。


Jリーグ規約23条3項違反による制裁は(おそらく)愛媛FCがはじめてのこと。

そのため比較することは難しいのですが、Jリーグ規約3条2項違反によって制裁が下されたケースは過去にもありますので、そちらを表にまとめてみました*6


https://lh3.googleusercontent.com/P4KtmzIO6fSqaIYGboMnRg41g_Hia2hlXYKnSjZuYKbSQEBZ89R5iA-4RYAZubdxOT3rxFnWTp8HHSMy2UydVW0JvHjdCXGNkg6x8sHXSyZ8AsZqDEK5JTe4dqWP59Qy0CWBx-detw=w960-h720-no


こうして見ると、決して愛媛FCに対する制裁が軽いというわけではありません*7
とはいえ、粉飾決算に対する処分だと考えれば、どうしても軽く感じてしまいます。

過去最高額の制裁金は大宮アルディージャに科せられた2000万円であることと*8グルージャ盛岡のクラブ資金私的流用に係る制裁金が500万円であることを踏まえると*9「悪質であったか否か」が制裁の程度に強く影響を与えたのではないかと考えられます*10


余談ですが、記事公開日に長崎の観客数水増し問題が発覚しました。
長崎に科される制裁から今後の運用方針を読み解くことができるかもしれません。


www.nishinippon.co.jp

[Ⅲ]Jライセンス交付後に発覚した違反行為

ところで、愛媛FC粉飾決算について、Jライセンス審査・交付上問題はないのでしょうか。

大河常務理事兼コンプライアンスオフィサー(当時)は決算内容を修正したとしても、三期連続赤字と債務超過に該当しないことから問題ないと説明しています*11

同時に、第9回でも取り上げたように人事体制・組織運営基準上も問題ないとしました。


とはいえ、仮に三期連続赤字や債務超過に該当しないとしても、粉飾決算を行っていた以上、愛媛FCがCLAに提出した計算書類は虚偽の内容だったということになります。

すなわち、財務基準のF.01「年次財務諸表(監査済み) 」を充足していなかったということ。

運用細則 F.01 年次財務諸表(監査済み)


3.判定
判定は、原則としてライセンス申請者の個別財務諸表で行うものとする。ただし、第3項第2号に該当する場合には、この限りではない。


(1)ライセンス申請者が以下のいずれかの状況である場合は、基準F.01は満たさないものとする。
①提出書類の内容が虚偽であったとき
②提出期限までに書類を提出せず、かつ、CLAからの提出指示に従わなかったとき


ただし、F.01の判定は上記の通りライセンス申請者に対するものでライセンシーは対象外。
愛媛FCは問題発覚時にライセンスが交付されていたので判定上問題はありません*12


かといって愛媛FCクラブライセンス制度上問題がないわけではありません。

虚偽の書類の提出は、クラブライセンス制度における遵守義務違反に該当します。
そして、冒頭で紹介したJリーグ規約制裁の対象とされています。

交付規則 第6条 〔遵守義務〕


(2) ライセンス申請者およびライセンシーは、JライセンスまたはAFCライセンスの申請または取消しに関連する手続において、虚偽の事実を記載した書面を提出してはならず、また、虚偽の事実を述べてはならない。

交付規則 第8条 〔ライセンス制度上の制裁〕


(2) ライセンシーまたはライセンス申請者に本交付規則または「Jリーグクラブライセンス関連規程」の違反(虚偽の文書の提出、期限の無視、期限超過の懲罰、ライセンサーに対する非協力的なあらゆる行為を含むがこれらに限られない)があった場合、当該ライセンシーまたはライセンス申請者は、Jリーグ規約の定めに従って制裁を科されることがある。


一方で、Jリーグ規約制裁には前半で説明したように、ライセンス関係の制裁がありません。
つまり、Jリーグ規約制裁では愛媛FCのライセンスに関する制裁は下せないのです。


しかし、審査中に虚偽が発覚するとライセンスが交付されないのに、審査後に判明した場合はライセンスが交付されたままというのは整合性の取れない取扱いです。

それならば審査中にバレなければOKということになってしまいます。


愛媛FCは悪質ではなかったと判断されましたが、悪質なケースも生じ得るでしょう。
その場合でも愛媛FCと(金額はさておき)同様の処分しかできないのでしょうか。

[Ⅳ]クラブライセンス制度上の制裁に関する検討

冒頭で紹介したように、クラブライセンス制度上の制裁には4種類のものがあります。

このうち、A等級基準未充足の場合に、B等級制裁を持ち出すことは当然できません。
また、AFCから科せられる制裁は伝家の宝刀なので普段から適用することもできません。

したがって、Jライセンス交付後に発覚した違反行為(A等級基準未充足)に対しては、Jリーグ規約制裁または23条3項制裁によって対応しなければならない、ということになります。


ここで、23条3項制裁の要件を確認しておきたいと思います。

交付規則 第23条〔ライセンスの有効期間 / 取消し〕


(3) ライセンシーが以下のいずれかに該当する事態となった場合には、当該ライセンシーは、FIBまたはABの決定により、Jライセンスを取り消されまたは制裁を科され得る。


① 当該ライセンシーが本交付規則に定めるライセンス基準を満たさない状況となり、短期的な回復が見込めなくなった場合
② 当該ライセンシーまたは第三者が当該ライセンシーについて破産、特別清算、民事再生または会社更生の申立てを行ったとき
③ 当該ライセンシーが解散、合併、会社分割または営業の全部もしくは重要な一部の譲渡を決議したとき
④ Jリーグ定款に基づきライセンシーが除名処分となったとき


現実問題として、Jライセンス交付後の違反行為は①に該当するケースだけでしょう。
つまり、「ライセンス基準を満たさない」且つ「短期的な回復が見込めない」場合。

「ライセンス基準を満たさない」という要件については特に疑問もないと思います。
問題は、「短期的な回復が見込めない」という要件をどのように解釈するかです。


「短期的な回復」というからには期間が問題となっているはず。

換言すれば、愛媛FCによる虚偽書類の提出のようにすぐに改善可能なものは含まれず、アカデミー整備やスタジアム確保等のスケールの大きな問題、期間の問題に直結する財務上の問題(三期連続赤字・債務超過等)などが該当すると考えるのが妥当な解釈ではないでしょうか。

また、交付規則23条はライセンスの有効期間について定めた規定であり、ライセンス申請者・ライセンシーの違反行為に対応することを念頭には置いてないように思います。


以上のことから、B等級基準未充足の場合または短期的な回復が見込めない場合を除き、Jライセンス交付後に発覚した違反行為に対しては原則Jリーグ規約制裁で対応することになり、したがって当該クラブのJライセンスを剥奪・取消することは難しいということになります。



[Ⅴ]まとめ ~クラブライセンス制度上の制裁に関する問題点~

今回は、愛媛FCの事例を通してクラブライセンス制度上の制裁について確認しました。
当時、愛媛FCに対する制裁が甘いのではないかという批判もあったようです*13

ただ、Jリーグ規約に基づく制裁は冒頭で確認したように、軽い内容(けん責)と重い内容(除名)の高低差が大きいため、あのような制裁となったのだと推察されます。


他方で、粉飾決算を行っていたのは事実で(悪質だったかは別問題)、クラブライセンス制度の根幹を揺るがす問題だったことを踏まえると、そういった声があがるのは当然でしょう。

また、ライセンス上の違反行為に対してはライセンスに係る制裁を科すのが道理。
つまり、問題はライセンス交付後の違反行為に対してJリーグ規約に基づいて制裁を科すこと

たとえば、B等級制裁をB等級基準未充足の場合以外にも適用できないでしょうか。
AFC規則との整合性が問題にはなるかもしれませんが、検討の価値はあるように思います。


また、交付規則23条3項の作り方にも問題があり、制裁関係の規定に不備が見られます。

交付規則 第23条〔ライセンスの有効期間 / 取消し〕


(3) ライセンシーが以下のいずれかに該当する事態となった場合には、当該ライセンシーは、FIBまたはABの決定により、Jライセンスを取り消されまたは制裁を科され得る。


困ったことに交付規則23条3項にはどのような制裁が科せられるか明記していません。
交付規則8条1項に基づくのか、Jリーグ規約に基づくのか、それとも全く別の規約・規程か。

幸い、当該事態が生じたJクラブは今のところいませんが、早急に改正するべき条文です*14


以上のように、クラブライセンス制度上の制裁にはいくつか問題があると考えます*15

Jクラブにとって制裁を受けることは軽いものではありません。
場合によってはスポンサーや株主に対して釈明・謝罪を行う必要もあるでしょう。

それだけ重要な制度に穴があることはあってはならないこと。
再度条文を確認し、制度上の問題がないか再確認することを望みます。


<今回のまとめ>

  • Jリーグ規約に基づく制裁は悪質であったか否かが重要な判断基準の模様
  • Jライセンス交付後に発覚した違反行為があった場合、短期的な回復が見込まれるときはJリーグ規約に基づいて制裁が科されるため、ライセンスの剥奪等は難しい


次回は補足説明最終回。
上訴制度とその他の改正項目について取り扱います。



*1:Jリーグ規約142条1項4号にある「一部観客席の閉鎖」と、交付規則8条1項13号にある「収容人数の削減」は同じ制裁の可能性があるが、はっきりとしないのでここでは別物として取り扱っている。

*2:なお、交付規則32条においてもAFCが制裁を科す権利について言及している。ただし、この制裁は対象が「クラブ」となっており、範囲はより広い。

*3:おそらくThe AFC Statutes 2017の第60条や、AFC Club Licensing Regulations 2016の第6条第4項あたりが該当条文。

*4:平成24年度および平成25年度の決算処理に関するご報告とお詫び愛媛FC 2015年1月16日付》。愛媛FCが多年度にわたる粉飾決算……第三者委員会で追加調査へサッカーキング 2015年1月16日付》。

*5:Jリーグによる制裁の決定について愛媛FC 2015年2月23日付》、不正会計発覚の愛媛FCはけん責と制裁金300万円…組織の直接的関与認められずサッカーキング 2015年2月23日付》。

*6:ここにあげている制裁事例はJリーグ規約3条2項違反に対するものだが、その他の条文に違反しているケースもある。例えば大宮アルディージャJリーグ規約36条1項7号にも違反している。制裁決定についてJリーグ.jp 2010年11月16日付》。

*7:なお、Jリーグ規約3条2項違反にかかる制裁金は、生命・身体に対する行為に該当する場合は5000万円以下、公益に対する行為に該当する場合は3000万円以下、名誉・財産に対する行為に該当する場合はは2000万円以下とされている。また、制裁金には合算や加重、酌量減軽があるため、本件の厳密な上限金額は不明。したがって、この比較表は参考程度。Jリーグ規約145条、148条、149条、156条1項。

*8:制裁決定について《Jリーグ.jp 2010年11月16日付》、Jリーグの理念揺るがす大宮の「観客数水増し」問題日本経済新聞 2010年11月20日付》。

*9:前副社長によるクラブ資金私的流用に対し グルージャ盛岡に制裁を決定《Jリーグ.jp 2016年11月16日付》。

*10:Jリーグ規約3条2項違反ではないが、Jクラブの財務に関わる問題・制裁として、グルージャ盛岡のケースの他に大分トリニータの無断増資に対する制裁がある。こちらはけん責(始末書提出)のみ。制裁決定について《Jリーグ.jp 2008年12月26日付》。

*11:厳密に言えば、愛媛FCは2010年度決算から4期連続の赤字だったが、三期連続赤字の判定は2014年度決算から行われることとされていたため、三期連続赤字の判定に影響しなかった。愛媛FCの粉飾決算にJリーグ側が見解 第三者委員会を設置、さらなる原因追及へスポーツナビ 2015年1月16日付》。

*12:クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2015シーズン Jリーグクラブライセンス交付について《Jリーグ.jp 2014年9月29日付》。

*13:Jリーグ、不適切会計の愛媛FCにけん責と制裁金300万円の処分を決定《ドメサカブログ 2015年2月23日付》。

*14:前述したように、愛媛FCはこの条文に該当しなかったものと考えている。

*15:この他に、運用細則において「Jリーグクラブライセンス 交付後の違反事例に対する審査フロー」というものが設けられているが、これは23条3項制裁に関するもの。23条3項制裁は、一定の事態が生じた場合に科せられる制裁で違反行為に限られない。したがって、交付規則8条2項の内容と交付規則23条3項の内容を混同して作成している可能性がある。Jリーグクラブライセンス交付規則運用細則 フロー15。

第10回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)

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ついに本シリーズも大台に乗りました。乗ってしまいました。
前回のシリーズはギリギリ9回で収まったのですが…。

あともう少しだけお付き合い下さい。


今回は前半部分でAFC規則との関係について確認します。
後半部分では、AFC規則の各種基準と交付規則の各種基準との比較検討を行います。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条)
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について
第14回クラブライセンス制度の全体像、おわりに



[Ⅰ]クラブライセンス制度とAFC規則との関係

まず、AFC規則との関係について確認しておきたいと思います。


AFC規則とは、AFC版交付規則にあたる「AFC Club Licensing Regulations」のことです*1
そして、第1回で説明したようにAFC規則はACL参加資格を定めるために設けられました*2

しかし、AFCがアジア全域のクラブを一つ一つ審査するというのは現実的ではありません。

そこで、Jライセンスが交付されたクラブで、ACLの出場資格を有するクラブはAFCライセンスが交付されたものとみなすという簡便的な方法を採用しているのです。

交付規則 第29条〔AFCクラブ競技会への出場資格の承認〕


(1) Jライセンスを交付されたクラブは、国内競技会の結果、AFCクラブ競技会への出場資格を得ることを条件として、AFCライセンスを交付されたものとみなされる。


この方法を認めるためには、AFC規則に定める要件を交付規則でも求める必要があります。
そうしなければAFC規則が有名無実化してしまいますから。

このことが書かれているのが交付規則2条です。

交付規則 第2条 〔AFC規則との関係〕


(1) 本交付規則は、AFC規則の定めに従って、Jライセンスのみならず、AFCチャンピオンズリーグの出場資格(以下「AFCライセンス」という)に関しても必要な事項を定めるものである。この関係において、本交付規則は、AFC規則に規定されるAFCライセンスの各基準およびライセンス交付プロセスにおける必須要件を全て規定する。


(2) Jライセンスに関する基準がAFCライセンスの基準の最低要件より厳格化されまたはAFCライセンスの基準の最低要件に追加されている場合は、当該厳格化または追加された基準は、AFCライセンスに準用されるものとする。


ここで注目するべきは交付規則2条2項の規定。
交付規則における基準をAFC規則のそれよりも厳しくすることを認容しています。

実際、Jリーグクラブライセンス制度はAFCのものよりも厳しく作られているそうです。

クラブライセンス制度とは何か?2013年導入を目指すJリーグの不退転
スポーツナビ 2012年1月20日付》


今回はAFCからの通達ということもあり、日本としてはアジアのトップとして模範を示すという意図もあったのだろう。Jリーグは「AFCクラブライセンス交付規則よりやや厳しめのレベルで日本版のクラブライセンスを作る」(資料より。以下、同)という判断を下した。そして日本で定めるルールは「J1・J2・準加盟に関係なく、一部を除いて全クラブ共通」とすることとなった。

キーマンが描く20シーズン目の航海図 ~改革の先にある10年後のJリーグとは?~(後編)
フットボールチャンネル 2013年5月8日付》


そして第三点が、今後のアジア戦略。リーグとして、アジアでトップを維持しておかないと、これからのグローバルの時代に対応できない、というのがあります。確かに、アジア各国のプロリーグの仕組みというのが、必ずしもレベルが高いというわけではない。とはいえ、それに満足しているようでは、日本のサッカーの発展は望めないだろうと。AFCが定めるライセンス制度よりやや厳しくしたのは)そういった考えがベースにあります


ただ、厳しい規定を設けているとはいえ、Jリーグの審査が甘くては意味がありません。

そのため、AFCにはJリーグをチェックする権利が留保されていますし、(全てではありませんが)AFCの決定がJリーグの決定に優先する場合も認められています

交付規則 第9条 〔AFCによる検査〕


(1) AFCまたはその指名する機関もしくは代理人(これらを総称して「AFC調査人」という)は、本交付規則およびAFC規則の遵守状況を調査するため、Jリーグに対し抜き打ち検査を行うことができ、Jリーグが本交付規則またはAFC規則に違反していると判断される場合には、その違反行為の性質と重大性に鑑み、JリーグはAFCから制裁を受けることがある。

交付規則 第41条〔本交付規則に定めのない事項〕


(2) 前項の定めに関わらず、本規則に規定されていない事項のうちAFCクラブ競技会への出場に関連する事項に関しては、AFC規則に基づきAFCが決定を下すことがある。この場合、AFCの決定がJリーグの決定に優先する。


以上のことから、AFC規則はJリーグクラブライセンス交付規則の上位法のような位置付けという風に考えておけばいいのではないでしょうか。

[Ⅱ]Jライセンスを有しない場合のACL出場権

少し本題から逸れてしまいますがACL出場権についてもうちょっとだけ見ておきます。


ACL出場権は現行制度上、J1リーグ戦の1位~3位と天皇杯王者に与えられます*3

J1リーグの1位~3位についてはCS制が廃止された今、特に疑問もないでしょう*4
問題は、J1・J2・J3クラブだけではなく、JFL以下のチームも参加可能な天皇杯*5


前述の通り、AFCライセンスが交付されるのは原則としてJライセンスが交付された場合。
そして、これまで何度か確認したようにライセンス申請者はJ1・J2・J3クラブのみ*6
すなわち、JFL以下のクラブはJライセンスを取得することはできません

では、例えば、いわきFCが今年の天皇杯で優勝してもACL出場権を得られないのでしょうか*7


www.dnszone.jp


結論から言うと、出場権を得られる可能性はありますあくまで可能性です)。
それがAFCライセンスの臨時適用申請という受け皿的制度。

交付規則 第30条〔AFCクラブ競技会出場の臨時承認〕


(1) Jライセンスを保有していないクラブが、国内競技会の結果によってAFCクラブ競技会への出場資格を得た場合、Jリーグは、JFAを通じ、当該クラブに代わり、AFCに対し、AFCライセンスの臨時適用を申請することができる。


この臨時適用申請の運用方針は(調べていないのと事例がないので)不明です。

後述しますが、AFC規則にはスタジアムのキャパシティに関する定めはありません。
したがって、スタジアムのキャパシティを理由にNGが出ることはないと思います。


iwakifc.com


ただ、先日物議を醸したプレスリリースにあるナイター設備はACLの日程上必要でしょうが*8



[Ⅲ]AFC規則と交付規則の基準比較

本稿において交付規則における各種基準はAFC規則のそれより厳しいと説明しました。
では、実際にどのような点に違いがあるのでしょうか。確認してみましょう。

全部細かく見るのはさすがに無理なので、どんな内容があるのか、それらの等級は何か、という点を比較しながらポイントを押さえていきたいと思います。


https://lh3.googleusercontent.com/yOsPRnl7HOBAb16-k6J-9LaB0NkIVVIEtZ1hFu_X8nna7MTyWAyrmPD7gFvFDzOcmkqwLyPHcH9iYOFYYAuoFhLFf5dE6h6HDXBUxjUCmk-JVYXtj3IfNjJFNIwPVIinqpmbvA=w960-h472-no


まずは競技基準。少し分かりにくいですが、対応する条文を矢印で結んでいます。
黄色で塗りつぶしている部分は交付規則に対象条文がない項目。

競技基準で言えば、女子チームの創設はJリーグ独自の項目ということです。


https://lh3.googleusercontent.com/y_uXKr87u9xn0X_QKAOkXxadlJ3vv2ZfXXpGTzPxOp8jvyufhqPnQQBUbeC3Rc9a5ys7O3Mi-btpEG-B9VDEMSfNt0M4hFu7WgVhHVoABTFhMduJkG5pARKMXfJ-eQyXj78-Yg=w960-h686-no


施設基準は6項目がJリーグオリジナルのもの。
特に、Jクラブを悩ませるキャパシティ・屋根・トイレが独自項目なのは意外かもしれません。

また、いくつかの項目で等級が上がっていることも分かります。


https://lh3.googleusercontent.com/g9UHREO3SD3G_DLjuBZgxChXfD9nVGUWq8N7ZFfvcjyrsFmsWrnFNSYNAt7bEHrnB5yz9aRLXx2hGQpUB65MH9-IbV6Mt9VLfva0Pt68pWTdP2XY25p5j-6nyoAfi1nqCyx_8A=w960-h939-no


人事体制・組織運営基準にはオリジナルが4項目あります。
第9回で見たように、コンプライアンス・オフィサーはJリーグが独自で力を入れている項目。

おそらくクラブライセンス制度には各国のリーグの特色が表れるのでしょう。


https://lh3.googleusercontent.com/aMlfraqzbTXe1Wo_Yc7km33QSXKrfm-Yrsa3UKPkUC_NgW5ZZtsEyC2XjBLt4tnTKcJIgXrQiOo8EjGe0_r0-068u3ecVoS6umHQOa3cal_5v7bHKCR79iJIx3LGAOkYsgJpSw=w960-h398-no


法務基準にはあまり変化はありません。


https://lh3.googleusercontent.com/BigwZy4R9jnh6NxhJR1eq2Dd3HQ9mxUBuxby0dDn4Fnqg1kcUYolMWBNWX1gHKWTNfNOhPXsa9lHEVb8QO5W5aU_Kx1Jl2gKgPC-DB7DJ6hCG3kY0V_3xrYWE7PInh6T43WMMw=w960-h490-no


最後に財務基準。こちらも等級が上がったくらいで大きな違いはなさそうです。

ただし、今回比較を行っているのはあくまでも項目名と等級のみ。
実際には、その運用方法(判定等)に違いがある場合も少なくありません。

その代表例が財務基準における三期連続赤字と債務超過の禁止
この2つの基準はJリーグ独自のものでAFC規則には存在しないものです。


以上のように、AFC規則よりも交付規則上の基準の方が厳しいことが確認できました。
施設基準と財務基準の中でも特にJクラブを特に悩ませる基準がJリーグ独自のものだったというのは意外なものですし、賛否の分かれるところでもあるでしょう。


<今回のまとめ>

  • Jライセンスを有するJクラブが成績要件を満たせば自動的にAFCライセンスを取得する
  • Jライセンスを有しないクラブが成績要件を満たした場合で、ACL出場権を得ようとするときはAFCに臨時適用申請をする必要がある
  • スタジアムの収容人数・屋根・トイレ、三期連続赤字・債務超過の禁止はJ独自基準



*1:Jリーグクラブライセンス交付規則 定義集。

*2:2010年度第2回理事会 協議事項9 関連資料No.7《財団法人日本サッカー協会 2010年5月20日開催 2頁》。

*3:来季ACLの出場枠は2+2?リーグ2位はプレーオフから出場も《ゲキサカ 2016年8月24日付》。

*4:2015年~2016年シーズンのJ1リーグにおいて、ACL出場権は現在と変わらずリーグ戦上位3チームに与えられていたが、リーグ戦の順位付方法が現在と異なっていた。すなわち、CS決勝の優勝クラブがリーグ1位、CS決勝の準優勝クラブがリーグ2位となり、リーグ3位以降はCS決勝戦出場チームを除く年間勝点の順位で決定する方式。【2015Jリーグ J1リーグ】大会方式および試合方式について ~2015明治安田生命J1リーグおよび2015Jリーグチャンピオンシップ~《Jリーグ.jp 2014年12月16日付》。

*5:ただし、第95回大会より第2種加盟登録チームの出場は認められていない。第95回天皇杯全日本サッカー選手権大会 大会概要《Jリーグ.jp 2017年6月26日閲覧》。

*6:Jリーグクラブライセンス交付規則18条。

*7:残念ながら記事公開前にいわきFCは清水エスパルスに敗れて敗退した。第97回天皇杯全日本サッカー選手権大会 試合結果日本サッカー協会 2017年7月12日付》。

*8:2017年のACLにおいて済州ユナイテッド浦和レッズの試合は、試合会場にナイター設備がないためデーゲーム開催となった。ただし、本ケースはU-20W杯の開催により本拠地が使用できないという特殊事情があったため、例外的な取扱いが認められたようである。したがって、そのような特殊事情がない限り例外的な扱いは受けられない可能性がある。【ACL】浦和不利?チャンス? 済州のメインスタジアム使えずサッカーダイジェストWeb 2017年5月24日付》。

第9回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)

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今回取り扱うのはクラブライセンス制度最後の基準・人事体制・組織運営基準。
人事体制・組織運営基準について説明した後で各種基準のまとめも入れています。

順番がイレギュラーなのはまとめを入れた関係上です。あしからず。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条)
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について
第14回クラブライセンス制度の全体像、おわりに



[Ⅰ]人事体制・組織運営基準の概要

それでは人事体制・組織運営基準の目的から確認していきましょう。

交付規則 第35条〔人事体制・組織運営基準〕


(1) 人事体制・組織運営基準の目的は、以下のとおりである。


① ライセンス申請者がプロフェッショナルな方法で運営管理されること
② ライセンス申請者が、一定のノウハウおよび経験、スキルを有するスペシャリストを有すること
③ トップチームおよびその他のチームの選手が、資格を有するコーチによるトレーニングを受け、必要な医療スタッフによりサポートされること


このように、人事体制・組織運営基準(以下、「人事基準」という。)とは、適切な資格・スキル・経験を持った人材を雇って運営しているかチェックする基準です。


規則番号等級項目記号
P.01A等級クラブ事務局
P.02A等級代表取締役
P.03A等級財務担当(ファイナンスオフィサー)
P.04A等級運営担当(オペレーションオフィサー)
P.05A等級セキュリティ担当(セキュリティオフィサー)
P.06A等級広報担当(メディアオフィサー)
P.07A等級事業担当(マーケティングオフィサー)
P.08A等級コンプライアンス・オフィサー
P.09A等級医師(メディカルドクター)
P.10A等級理学療法士(メディカルスタッフ)
P.11A等級トップチーム監督
P.12A等級トップチームのアシスタントコーチ
P.13A等級アカデミーダイレクター
P.14A等級アカデミーチーム監督
P.15A等級アカデミーチームコーチ
P.16A等級安全・警備組織:警備員
P.17A等級権利と義務
P.18A等級ライセンス申請書類提出後の変更通知義務
P.19A等級ライセンス交付シーズンにおける後任の選任義務
P.20C等級法務担当(リーガルオフィサー)
P.21C等級テクニカルダイレクター
P.22C等級トップチームのゴールキーパーコーチ
P.23C等級トップチームのフィットネスコーチ
クラブライセンス制度導入時との比較を記号欄で示している。各記号の意味は次の通り。
 ☆:新設の規定 ○:大きな変更あり △:軽微な変更あり ◆:別の基準から移動した


人事基準の判定は、該当の資格と経験を持つ人材を配置しているかという点に集約されます。
その中でもP.03「財務担当」とP.05「セキュリティ担当」は特に重視されているようです。

というのも、P.03からP.07のうち上記を除く役職については、1年以上の実務経験を積んでCLAが発行する○○適正証を受領するかJリーグの課程終了によって資格を有することができます。


一方、財務担当には会計参与を置くか*1、一定の資格を持つ者または3年以上の実務経験を積んでCLAが発行する財務担当適正証を受領した者を置かなければなりません。

交付規則 P.03 財務担当(ファイナンスオフィサー)(A等級


ライセンス申請者は、経理・財務を担当する常勤の取締役を置き、かつ、以下のいずれかに該当する者を財務担当(ファイナンスオフィサー)として置かなければならない。


① 会計参与
ただし会計参与を財務担当とする場合は、会計参与との連絡担当となる常勤の財務担当社員を置くこと


② 常勤の経理・財務担当で、課長職以上の者で、以下のいずれかの資格を有する者
イ. 公認会計士または税理士
ロ. 経理・財務分野において3年以上の実務経験を有し、Jリーグから発行される「財務担当適正証」を有する者


また、セキュリティ担当も、一定の資格を有する者またはJリーグの課程に参加し、且つ、1年以上の実務経験を積んでセキュリティ担当適正証を受領した者でなければなりません。

交付規則 P.05 セキュリティ担当(セキュリティオフィサー)(A等級


ライセンス申請者は、安全および治安に関する事項について責任を有するセキュリティ担当(セキュリティオフィサー)として、以下のいずれかに該当する者を置かなければならない。


① 国内法令による、警察官あるいは警備員としての証明を有する者
② 所定の課程の履修に基づいて国家が認めている機関が発行する、安全と保安についての免許を有する者
③ Jリーグが特定する、安全と保安に関する課程に参加し、かつ、最低1年の実務経験を有し、Jリーグから発行される「セキュリティ担当適正証」を有する者


Jクラブの財務担当に適切なスキル・経験を有した人材を置くことは非常に重要です。
ここに不適切な人材を置いてしまうと特に重要な財務基準にまで悪影響を与えます。

また、スタジアム内での安全管理もJリーグの生命線。
数ある担当の中でもこの2つの役職が重視されるのは当然と言えるでしょう。


また、クラブライセンス制度導入によって、P.10「理学療法士(メディカルスタッフ)」とP.13「アカデミーダイレクター」といった専門職・役職が新たに要求されることになりました*2


sports.yahoo.co.jp


人事基準を通して、こうしたプロフェッショナルな人材の配置を義務づけることで、Jクラブ全体の水準を引き上げるという意図の表れではないかと思います。


一方で、2015年に起こった愛媛FC粉飾決算問題は人事基準の限界を示しました

愛媛FCの粉飾決算にJリーグ側が見解 第三者委員会を設置、さらなる原因追及へ
スポーツナビ 2015年1月16日付》


――ライセンス制度の基準でガバナンスの問題もあったと思うが、それには引っ掛からないという認識か?


人事組織基準というのがありまして、財務担当者を置きなさいといったものがあります。ただ、『人(を置く)』としての要件はそろっていて、そこには引っ掛かってこないんです。ただ少し話を広げますと、クラブライセンス制度においては監査法人、または公認会計士の適正な意見表明というのがまず前提になっています。


(中略)


そこの、愛媛側の公認会計士の監査の中で、たとえば収入の水増し等について見落としがあったのは事実だと私は思っています。従って、有資格者で唯一の法人・個人がやっているものを前提として、これはJリーグの審査だけじゃなくて株式の投資家保護を含めて日本のシステムとしてそうなっていますから、そこのところは正しいという前提に立たないと、日本のいろいろな会計システムが成り立たなくなってしまうわけです。これがライセンスのガバナンスに抵触しているということにはならないです。


あくまでも人事基準は人材配置に係る基準であり、その内容までは問えないということ。

もちろん、その内容については他の基準でチェックすることになるでしょうし、CLAのチェックが入るので以前よりもよっぽどマシではあるのですが。

[Ⅱ]人事体制・組織運営基準に関する改正項目

人事基準はクラブライセンス制度導入時からの改正項目が多い基準です。


まず、A等級基準にコンプライアンス・オフィサーが新たに設けられています。
コンプライアンス・オフィサーは、ソーシャル・フェアプレーを管轄する役職。

そして、ソーシャル・フェアプレーとは、反社会的勢力との関係遮断差別の根絶Jリーグとして社会的責任を果たすの3点から構成されています*3

交付規則 P.08 コンプライアンス・オフィサー(A等級


(1) ライセンス申請者は、以下の事項について責任を有するコンプライアンス・オフィサーを置かなければならない。


① クラブに所属する全員に対するソーシャル・フェアプレー(反社会的勢力との関係遮断、差別の根絶およびJリーグとしての社会的責任の履行)の浸透に向けた研修の統括
② ソーシャル・フェアプレーに抵触する事案(いわゆる有事)が発生した時の対応
③ クラブに関わる者(ファン・サポーター等)のソーシャル・フェアプレーの啓発


浦和レッズ差別横断幕事件(「JAPANESE ONLY」横断幕の事件)が引き金となり*4Jリーグは2014年以降ソーシャル・フェアプレーの推進を目指しています。

コンプライアンス・オフィサーの配置もそうした取り組みの一貫*5
なお、新設の役職だからかもしれませんが、P.02からP.07までとの兼任が認められています*6

この他に、トップチームのゴールキーパーコーチと、トップチームのフィットネスコーチが新設されていますが、これはACL規則との整合性によるもの。第10回で説明します。


次に、同じく新設されたテクニカルダイレクターの役割は次のように説明されています。

交付規則 P.21 テクニカルダイレクター(C等級


(3) テクニカルダイレクターは、優れた管理能力やビジョンを有し、クラブの技術育成において指導力を発揮することとする。


(4) テクニカルダイレクターは、以下の事項について責任を負うものとする。但し、これに限定はされない。


① クラブの哲学を確立および/または実施すること
② ユースと選手の育成体制・プログラムを確立すること
③ 技術基準が維持され、向上されることを確実にすること
④ すべての技術および育成プログラムを監視し、評価すること
⑤ 人材発掘(スカウト)
⑥ クラブユースアカデミーの管理
⑦ コーチやスカウトの採用と管理
⑧ 試合分析プロセスの管理


ただ、この基準を読んだだけでは範囲がかなり広く、今ひとつピンときません。
調べた限りでは、テクニカルダイレクター=強化担当という認識で問題ないようです*7


その他の改正項目は、一定の要件を満たせばアカデミーダイレクターとアカデミー監督の兼任が認められるようになったこと、医師の原則ベンチ入りが求められている点などです*8*9



[Ⅲ]各種基準の小括と運用の各年比較

以上でクラブライセンス制度における各種基準を全てチェックできました。
ただ、4回もかかってしまい、長くなったので全体のおさらいをしておきたいと思います。

まずは各種基準の目的・内容を再確認しましょう。


https://lh3.googleusercontent.com/JiUDPe18GDIp51_1s-uqTN1_pU0KIjxdq_rG7sVvcp1wCRak5VXGfZOCXIUPSUzkTtOQYaaAXEL9OLoMGrY7r9v2_71Kumx_6cnk4LWa4ZIAT7Wo076NTepkoF1XVNIDZqGKkw=w960-h720-no


上記のような基準を充足することでJクラブ全体の水準アップが期待されています。
そして、この中でも特に重要視されているのが財務基準と施設基準


財務基準では三期連続赤字と債務超過の禁止という形式基準がライセンス申請者を縛ります。
また、ライセンス交付に際して努力が必要な場合は是正措置が通達される可能性もあります。

下表にまとめているのはクラブライセンス制度導入後の是正措置通達数の推移。


https://lh3.googleusercontent.com/E7lNmVxlEHC3-TTzz3A0c-wVe4gV1wHYp3mVR_8otxb9n28uZNdxDn7GSBefg2K8y1kGdP7_zi3tNvCUUcoA0d97bxRWY0b1T4mGQ2TUKCZ2DC8bs_fuS10_dr7xwxnGgrLZ5g=w960-h720-no


このようにライセンス申請者数はほぼ一定ですが、是正措置通達の数は減少傾向
クラブライセンス制度の影響が明白に出ているデータだと思います。


施設基準で特に重要になるのはキャパシティ、屋根、そしてトイレ

キャパシティはJ1ライセンスJ2ライセンスを分ける唯一の基準です。
屋根とトイレはB等級基準の中でも特にハードルの高い項目。
そのため、B等級基準未充足に係る制裁もこの2点に関するものが中心となっています。

下表はB等級基準未充足に係る制裁の各年推移です。


https://lh3.googleusercontent.com/88QpaPmVLu7MQ_ifV3LWMGa2HGFbB40gLgA9N_U20QuN14xsbVksiLCZdym6zjj_5L_5lS33yZ26I47uocwhqdBKS3ZOBcKUD_WFW8aQkd8d44ro8tjPVGzOhZ3f3-kLmWGF-A=w960-h720-no


こちらも財務基準の是正措置通達と同様、制裁対象クラブが減少傾向。
実際に、クラブライセンス制度導入により各地のスタジアム等が改修されました*10

クラブライセンス制度は全国のスタジアム・練習場環境改善に貢献していると言えます。


<今回のまとめ>

  • 人事体制・組織運営基準は、適切な資格・スキル・経験を持った人を雇って運営しているかを確認する基準
  • 数ある担当の中で財務担当とセキュリティ担当が重視されている
  • クラブライセンス制度の導入によってJクラブの財務状況やスタジアム等の状況は改善されている


今回でクラブライセンス制度上の各種基準は終わり。
次回はAFC規則との関係を踏まえ、AFC規則との関係規則における各種基準と比較をします。



*1:会計参与は、公認会計士若しくは監査法人又は税理士若しくは税理士法人でなければならないとされている(会社法333条1項)。

*2:理学療法士(メディカルスタッフ)については、Jリーグ規約における「監督、コーチ、ドクターおよびアスレティックトレーナー(原則として公益財団法人日本体育協会公認)等(以下「チームスタッフ」という)」の「等」に該当するものと思われる(Jリーグ規約47条1項3号)。また、アカデミーダイレクターは現在Jリーグ規約107条2項等で規定されているが、クラブライセンス制度導入時(2012年4月1日施行のJリーグ規約)にはなかった。

*3:「3つのフェアプレー宣言」への合意と推進《Jリーグ.jp 2014年4月22日付》。

*4:ホームゲームにおける差別的な内容の横断幕掲出に対し浦和レッズに制裁を決定《Jリーグ.jp 2014年3月13日付》、浦和レッズへの制裁に対するチェアマンコメント《Jリーグ.jp 2014年3月13日付》、差別根絶に向けたJリーグの取組み「JAPANESE ONLY」が投げかけたもの《東京都人権啓発センター TOKYO人権64号 2014年11月20日発行》。

*5:ソーシャル・フェアプレーの浸透に向けた具体的取り組み《Jリーグ.jp 2017年6月15日閲覧》。

*6:Jリーグクラブライセンス交付規則運用細則 2-3〔人事体制・組織運営基準の運用細則〕 P.08 4(2)。

*7:テクニカルディレクターとゼネラルマネージャー《ゆっくりいこう 2011年11月2日付》、プレミア勢の移籍で明暗を分けた、「フットボール・ディレクター」の存在。《NumberWeb 2013年9月10日付》、ドルトムントのミヒャエル・ツォルクなど、SD(スポーツディレクター)の仕事とは?《FCクロコダイル 2015年7月25日付》。

*8:医師の原則ベンチ入りはもともとJリーグ規約でも求められていなかったが、Jリーグクラブライセンス交付規則の改正に合わせて「Jクラブは、すべての試合に、ドクターを同行させなければならない。」を「Jクラブは、すべての試合に、ドクターを同行させ、原則としてベンチ入りさせなければならない。」としている(Jリーグ規約52条3項)。

*9:これら以外の改正項目は次のとおり。まず、P.02の代表取締役について、クラブライセンス制度導入時は株式会社など会社法に規定される法人しか想定されていなかったが、現在は社団法人や財団法人も想定されている。法務担当が法務基準L.06から移動した。

*10:新スタジアム構想検討委員会「スタジアム整備検討に基づく構想書 ~スタジアム整備検討の基本的骨格について「スタジアムは地域活性化の新たな起爆剤」~」(モンテディオ山形、2016)4頁。

第8回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)

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今回取り扱うのは交付規則37条の財務基準。
クラブライセンス制度の中でも非常に重要な基準です。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条)
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について
第14回クラブライセンス制度の全体像、おわりに



[Ⅰ]財務基準の概要

財務基準がクラブライセンス制度の中で特に重要であると口を酸っぱくして言ってきました。
その証拠が、運用細則にあるライセンス評価チームの審査方針にも表れています。

運用細則 フロー5-A


(5) ライセンス評価チームは基本的に、交付規則のうち「財務基準」について、提出書類をもとに詳細な分析および調査を行う。ただし、ライセンス評価チームは、交付規則のうち「財務基準」以外のライセンス基準についてもヒアリング調査を行うことができる。


それだけ重要な財務基準について、まずはいつも通り目的の確認から始めましょう。

交付規則 第37条〔財務基準〕


(1) 財務基準の目的は以下のとおりとする。


① クラブの経済的および財務的能力を向上させること
② クラブの透明性と信頼性を高めること
③ 債権者保護を重視すること
④ シーズンを通じた国内競技会および国際競技会の継続性を保護すること
⑤ 国内競技会および国際競技会における財務面でのフェアプレーを監視すること


この目的について特に解説する必要性はないと思います。読んだとおり。
なお、⑤については第2回で説明したFFP」(ファイナンシャルフェアプレー)のことです。


規則番号等級項目記号
F.01A等級年次財務諸表(監査済み)
F.02A等級中間財務諸表(レビュー済み)
F.03A等級選手移籍活動によって生じる他のサッカークラブに対する期限経過未払金の皆無
F.04A等級従業員や社会保険当局、税務当局に対する期限経過未払金の皆無
F.05A等級ライセンス交付の決定に先立つ表明書
F.06A等級予算および予算実績、財務状況の見通し
F.07A等級ライセンス交付後の重要な後発事象の通知義務
F.08A等級財務状況の見通しの修正義務
クラブライセンス制度導入時との比較を記号欄で示している。各記号の意味は次の通り。
 ☆:新設の規定 ○:大きな変更あり △:軽微な変更あり ◆:別の基準から移動した


財務基準については、運用細則の中身もかなり重要になってきます。
今回は、交付規則と運用細則と両方を見ながらポイントを押さえていきましょう。

[Ⅱ]三期連続赤字と債務超過

財務基準といえば三期連続赤字と債務超過と言っても過言ではないくらいこの2つは重要です。
これらの判定方法は運用細則において次のように示されています*1

運用細則 F.01 年次財務諸表(監査済み)(A等級


3.判定


(2) 提出された財務諸表に基づいて審査を行い、以下のいずれかに該当する場合は基準F.01を満たさないものとする。


① 3期連続で当期純損失を計上した場合
② ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合
③ Jリーグからの指摘に基づき、過年度の決算の修正が必要となった場合において、過年度の決算を修正した結果、前2号に示す事態となった場合


三期連続赤字については特に説明は必要ないでしょう。
債務超過については念のため画像を用意しました。債務が超過してるから債務超過


https://lh3.googleusercontent.com/7k7nerv0Y45x0C-SE40kV_eEofTQNHIwR9aK9kXiEXuwhisikuNwEhZkdx_1bIMAJUGpSi8RacAgrH_QFvi6BF_RhY18CFnFunK2JtCfecZGf6teyjGEFeQH0prPlHiht2OlmA=w960-h720-no


この基準ができたことによる影響は非常に大きいものでした。

その最たる例として、横浜マリノスがあげられるでしょう。
横浜マリノスは2013年に親会社の日産自動車から10億円の損失補填を受けています。

2013年度 決算について
横浜マリノス 2014年5月8日付》


当初、この累積損失に関しては、構造改革の成果を蓄積し、長期的に解消して行く計画でしたが、その後導入されたクラブライセンス制度によって、2014年度末までの解消が不可避となりましたので、日産は4年間の改革のプロセスと成果を公正に評価した上で、緊急避難的な措置として、損失補填を実行することとなりました。


具体的には、通常の事業活動を通して改善した営業損益と区別するため、敢えて営業外の「特別利益」として、損失全体の60%に相当する10億円を2013年度に補填し、残りについては、2014年度中に何らかの形で実行する見通しとなっております。


ただ、ここにあるように横浜マリノスは自主的に経営健全化を図っていました*2


これに対して、サガン鳥栖のように債務超過を増資によって回避し、さらに翌年にも債務超過の恐れがあったため追加で増資するという力業で乗り切ったクラブもあります*3


サンフレッチェ広島は2012年に99%減資と第三者割当増資を実施*4
債務超過となっていたわけではないので、クラブライセンス制度導入が直接影響したわけではありませんが*5、資本状況に不安を抱えていたため間接的な影響はあったかもしれません。



[Ⅲ]クラブライセンス制度導入後に生じた財務上の問題

ただし、全てのクラブが順調に財務基準をクリアしていったわけではありません。
クラブライセンス制度導入後、財務基準関係で大きな問題が4件起こっています。


クラブ 発生年 内容
岐阜*6 2012年 財務状況に懸念。財界の支援と経営陣退陣を経てライセンス交付。
福岡*7 2013年 地元企業等の支援で運転資金不足・債務超過を回避しライセンス交付。
鳥取*8 2015年 単年度赤字により債務超過が確定し、ライセンス申請見送り。
愛媛*9 2015年 粉飾決算が発覚。制裁を受けるがライセンス交付上は問題ないと判断。


その一方で、鳥取のケースを除けば何とか事態は収束しています*10
鳥取についても、J2昇格のために明らかに無理をしており、その無理が祟る前に身の丈経営に切り替えられたことは悪くなかったのではないかと考えています。

また、第9回で紹介しますが、是正措置通達を受けるクラブも減少傾向となっています。


こうした三期連続赤字と債務超過の禁止はJクラブの萎縮を招くという批判もあります*11

しかし、第1回でも触れた大分・ヴェルディのようなケースを未然に防げる可能性があるだけでも価値があるのではないでしょうか。我々はフリューゲルスを忘れてはならないのです*12


ファジアーノ岡山のように戦略的に赤字を出すクラブもいていいでしょうし*13ヴァンフォーレ甲府のように毎期黒字を出すことを原則とするクラブがいてもいいでしょう*14

安定した経営を行うことを大前提とした上で、リーグ全体の水準が上がればいいと思います。

[Ⅳ]影響を及ぼし得るような経済的重要性のある事象または状況

次に取り扱うのはF.05ライセンス交付の決定に先立つ表明書。

交付規則 F.05 ライセンス交付の決定に先立つ表明書(A基準


(1) FIBによってライセンス交付の決定が下される期間の開始前7日以内に、ライセンス申請者はライセンサーに対し、当該申請者がライセンス交付文書を提出した日が属する事業年度の前年度の末日以降、ライセンス申請者の財務状況に(好影響か悪影響かを問わず)影響を及ぼし得るような経済的重要性のある事象または状況が生じたか否かを表明する書式を提出しなければならない。


(2) 前項に関わらず、ライセンス申請者の財務状況に(好影響か悪影響かを問わず)影響を及ぼし得るような経済的重要性のある事象が発生した場合には、ライセンス申請者は当該事象の詳細を説明する書式を直ちに提出しなければならない。


上記のように、「ライセンス申請者の財務状況に(好影響か悪影響かを問わず)影響を及ぼし得るような経済的重要性のある事象」とありますが、これは何を意味するのでしょうか。

この具体的な例示は運用細則にあります。
ただ文字を見ていても眠くなってしまうので画像1個にまとめると次の通り。


https://lh3.googleusercontent.com/Gp9j524gh2uuWKqNsO5_hi9Xcbg2n3bgvUDq93twkP9zK6MNQdh96xW4WjS7npaNjKrn-p6IOfDXKoGsRdhjljuCztZAfWrQCqdBG46RMN-jzukuWuO1_hZY3l0Por7D6Y6M1A=w960-h720-no
Jリーグクラブライセンス交付規則をもとに作成》


上記のような事象が生じた、あるいは生じる見込みがあれば報告するべしという基準です。
例示内容は増えており、今後も改正があるかもしれません*15

[Ⅴ]期限経過未払金

次に確認したいのは、「期限経過未払金」について。

冒頭の表でも確認しましたが、期限経過未払金には2種類のものがあります。
このうち、従業員や社会保険当局、税務当局に対するものは特に説明は不要でしょう。

問題は、「選手移籍活動によって生じる他のサッカークラブに対する期限経過未払金」。

運用細則 F.03 選手移籍活動によって生じる他のサッカークラブに対する期限経過未払金の皆無(A等級


4.基準F.03に対するその他の遵守事項および注意事項


ライセンス申請者は、移籍補償金(および連帯貢献金)、トレーニング費用、トレーニングコンペンセーション等、選手移籍に関して発生する費用の支払いにつき、遺漏なく手続を行わなければならない。なお、トレーニング費用等の支払いが免除される場合は、トラブル防止のため、その記録を書面で残すようにしなければならない。


お察しの通り、ここでいう期限経過未払金はいわゆる移籍金等に関するもの。
移籍金等を支払期限までにきちんと支払っているかが判定のポイントです。

逆に言えば、連帯貢献金が期限経過後も未払いのままだとライセンスが交付されません
連帯貢献金の対象クラブにとっては請求しやすくなっているようです*16。。


ここでいう「他のサッカークラブ」にプロ以外が当てはまるかは明らかにされていません。
ただ、トレーニング費用はアマチュア選手がプロ選手として移籍する場合に生じるものであり、学校などがその請求権を有している以上、含まれていると考えていいでしょう*17

[Ⅵ]その他の改正項目

最後に、財務基準に関する改正項目をまとめて確認していきたいと思います。


まず、F.02中間財務諸表(レビュー済み)がC等級からA等級に変更されました。

交付規則 F.02 中間財務諸表(レビュー済み)(A等級


(1) ライセンス申請者は、ライセンス申請日における最終の事業年度の末日が、第28条の一覧表のAFCへの提出期限(10月31日)の6か月以上前である場合には、中間財務諸表を作成し、提出しなければならない。


(2) 前項の中間財務諸表は、第28条の一覧表の提出期限の前6か月以内の日を末日とする中間期を対象とするものであり、監査法人または公認会計士の監査もしくはレビューを受けていなければならない。


注記: 上記に関わらず、2017年に行うライセンス申請に関しては、2016年10月28日付のAFC承認に基づき本基準の適用は免除されるため、ライセンス申請者は中間財務諸表を提出する必要はない。


近年、決算短信や中間決算短信では情報が遅すぎることから、ステークホルダーから四半期決算短信を求められる傾向にあり、それに対応している一般企業が多く存在しています。

サッカークラブは基本的に単純な投資対象ではないのですが、経営の舵取りが難しい業種ですから短いスパンでのチェックも重要と考えられたため等級が上がったのだと推察されます。


ただ、四半期決算はもとより、中間決算をするにも相当の財務処理能力が求められます。
Jリーグが2017年シーズンの免除申請を行ったのはその辺りの配慮もあるでしょう。

クラブライセンス規則にも変更点、A等級の練習場の天然芝はハイブリッド芝でも代用可
《ゲキサカ 2017年2月9日付》


追加となった基準でA等級のものはないが、見直された基準でC等級だった「中間財務諸表(監査済み)」がA等級の「中間財務諸表(レビュー済み)」の提出に引き上げられた。ただし17年の申請に関しては、日本サッカー協会(JFA)と協働の上でAFCに例外適用申請を行ったために除外となっている。


2018年シーズン以降、Jリーグでも中間財務諸表の提出が義務化されるかは不透明。
青影宜典クラブライセンスマネージャーの説明を聞く限りでは、AFCとの協議次第のようです。

【解説】2017シーズンにおけるクラブライセンスの変更点とは?(2)内容が見直しとなった5つの項目とは?
《Jウォッチャー 2017年2月17日付》


ただ一方でこの中間財務諸表を求める目的というのは、日本においてはすでに他の基準で充足できているところがありましたので、AFCとの協議の結果、今年の申請に関してはこの中間財務諸表の提出は必須ではないですという説明を受けている状況です。


仮に提出が義務化されることになった場合は、Jクラブの大半が1月決算を選択していますので、全クラブが対象となる可能性が高いものと思われます*18


もう1つの大きな改正は、F.01年次財務諸表(監査済み)に関するものです。

ここに、「ただし、ライセンス申請者が、前項にいう会計監査人から監査報告書において否定的意見が付されたかまたは意見不表明となった場合には、審査に及ばないものとする。」という一文が追加されました*19

監査意見には4種類のものがあり、それぞれの意味は次の通り。

監査意見の種類
日本公認会計士協会 2017年6月15日閲覧》


監査意見には、以下の4種類があり、監査人はこのいずれかの意見を表明する責任がある。


無限定適正意見
一般に公正妥当と認められる企業会計の基準にしたがって、会社の財務状況を「すべての重要な点において適正に表示している」旨を監査報告書に記載する。


限定付適正意見
一部に不適切な事項はあるが、それが財務諸表等全体に対してそれほど重要性がないと考えられる場合には、その不適切な事項を記載して、会社の財務状況は「その事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している」と監査報告書に記載する。


不適正意見
不適切な事項が発見され、それが財務諸表等全体に重要な影響を与える場合には、不適正である理由を記載して、会社の財務状況を「適正に表示していない」と監査報告書に記載する。


意見不表明
重要な監査手続が実施できず、結果として十分な監査証拠が入手できない場合で、その影響が財務諸表等に対する意見表明ができないほどに重要と判断した場合には、会社の財務状況を「適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない」旨及びその理由を監査報告書に記載する。


このうち、不適正意見または意見不表明となった場合には切り捨てられるわけですから、Jクラブとしても相当緊張感を持って臨む必要があるでしょう。


その他でも細々とした改正がありましたが長くなったので割愛させて下さい*20


<今回のまとめ>

  • 財務基準は、Jクラブの財務的能力を向上させ透明性・信頼性を高めるためにある
  • 財務基準で重要なのは三期連続赤字と債務超過の判定
  • 財務基準ができたことで問題も生じているが、是正措置通達の対象クラブは減少傾向
  • 中間財務諸表は今後義務化される可能性もある(当面は不要)
  • 監査意見で不適正意見か意見不表明が出た場合は審査をしてもらえない


それでは次回の人事体制・組織運営基準の概要でまたお会いしましょう。



*1:なお、クラブライセンス制度導入時は東日本大震災の影響もあって、三期連続赤字は2012年度から、債務超過は2014年度から判定することとされていた。

*2:大東和美村井満Jリーグ再建計画』(日本経済新聞出版社、2014)110頁、Fマリノスから「NISSAN」ロゴが消える日 日産が英マンチェスターとスポンサー契約する意味東洋経済オンライン 2014年7月29日付》。

*3:サガン、3億5000万円増資 債務超過解消佐賀新聞 2014年7月26日付》、サガン運営会社、2億2000万円増資佐賀新聞 2015年1月24日付》。

*4:減資及び第三者割当増資完了のお知らせサンフレッチェ広島 2012年5月15日付》。

*5:第8回サポーターズカンファレンス議事録《サンフレッチェ広島 2012年1月14日開催》。

*6:参考文献を列挙する。当クラブ「予算管理団体」の指定についてFC岐阜 2012年4月18日付》、FC岐阜、予算管理団体に Jリーグ、経営改善へ指定岐阜新聞Web・FC岐阜特集 2012年04月19日付》、FC岐阜が「予算管理団体」に…Jリーグ、経営改善へ指定《ドメサカブログ 2012年04月21日付》、FC岐阜に厳しい姿勢 Jリーグ、来季参加資格検討へ聴取岐阜新聞Web 2012年8月21日付》、FC岐阜の体制強化訴え 古田知事「経営陣交代含め」岐阜新聞Web 2012年8月22日付》、FC岐阜、来季存続へ 今西社長辞意、薫田氏で後任調整岐阜新聞Web 2012年8月24日付》、FC岐阜に来季のJ2ライセンス交付 設備改善計画提出へ岐阜新聞Web 2012年9月29日付》、藤澤信義氏・Jトラスト㈱代表取締役社長によるFC岐阜支援のお知らせFC岐阜 2012年12月25日付》。

*7:参考文献を列挙する。アビスパ危機 経営難 資金5000万円不足 Jリーグ退会も西日本新聞 2013年10月16日付》、【アビスパ経営危機】スポンサーの「ふくや」が応援キャンペーン発表!対象商品の売上金全額を寄付《ドメサカブログ 2013年10月31日付》、必然だったアビスパ福岡の経営危機問題 露呈した構造的問題と長く険しい再建の道スポーツナビ 2013年11月26日付》、アビスパ福岡、再建への道。経営危機に直面したクラブを救った地元企業「ふくや」フットボールチャンネル 2014年3月12日付》、アビスパ福岡株式会社への資本参加のお知らせ《株式会社システムソフト 2014年8月29日付》、経営危機に陥ったアビスパ福岡、復活の理由/前編「トップチームと同じように数字のプレッシャーにさらされるのは当然のこと」サッカーキング 2016年5月16日付》、経営危機に陥ったアビスパ福岡、復活の理由/後編「“アビスパ”というキーワードで、子どもたちの成長に好影響を与えることができたら」サッカーキング 2016年5月18日付》。

*8:参考文献を列挙する。クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2015シーズン Jリーグクラブライセンス交付について《Jリーグ.jp 2014年9月29日付》、弊クラブの経営状況に関する記者会見を行いましたガイナーレ鳥取 2015年4月24日付》。

*9:第10回で詳細に取り扱う。参考文献を列挙する。平成24年度および平成25年度の決算処理に関するご報告とお詫び愛媛FC 2017年1月16日付》、愛媛FCが多年度にわたる粉飾決算……第三者委員会で追加調査へサッカーキング 2015年1月16日付》、愛媛FCの粉飾決算にJリーグ側が見解 第三者委員会を設置、さらなる原因追及へスポーツナビ 2015年1月16日付》。

*10:FC岐阜に関しては後味が悪い一件だったが、クラブライセンス制度という面に限れば事態は収束した。木村元彦『徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男』(集英社、2016)201頁。

*11:クラブライセンス制度導入の影響 Jリーグにデフレ効果をもたらす心配はないのか……《JSPORTS後藤健生コラム 2012年1月18日付》、記者の目 Jリーグ配分金増額=大島祥平(東京運動部)毎日新聞 2017年2月24日付》。

*12:Jリーグ最大の「事件」 社会問題となったフリューゲルス Jリーグを創った男・佐々木一樹 第5回スポーツナビ 2012年9月20日付》、楢崎正剛が語る横浜フリューゲルスの記憶「僕らは結局は無力だった」ぐるなび みんなのごはん 2016年7月28日付》、横浜F、“最後”の天皇杯制覇の舞台裏。「伝説」につながる一言を発した若手FW【フリューゲルスの悲劇:20年目の真実】フットボールチャンネル 2017年2月14日付》

*13:J2ファジアーノ岡山の木村代表「赤字覚悟の投資も必要」日本経済新聞 2016年8月18日付》、ファジアーノ岡山の木村正明代表が語る「J1昇格」よりも大切なこと<1/2>=宇都宮徹壱WMより転載Yahoo!個人(宇都宮徹壱) 2016年11月25日付》。

*14:“甲府方式”運営は地方クラブの見本 奇跡の甲府再建・海野一幸会長 最終回スポーツナビ 2014年3月13日付》、第30回ヴァンフォーレ甲府経営委員会 第30回経営委員会の状況山梨県 2017年3月31日付》。

*15:交付規則F.05の4②ニ・ホはクラブライセンス導入時にはなかった改正追加項目。

*16:連帯貢献金の事例として、香川真司 マンU移籍で少年時代所属クラブに2000万ボーナス《NEWSポストセブン  2012年7月20日付》、岡崎慎司がもたらした知られざる経済効果。中学時代を過ごした街クラブに1300万円を生む『連帯貢献金』とはフットボールチャンネル 2016年6月16日付》。

*17:サッカー選手の登録と移籍等に関する規則28条、29条2項(Jリーグ規約・規定集2017 177頁)。

*18:柏レイソルジュビロ磐田YSCC横浜の3クラブが3月決算。アルビレックス新潟コンサドーレ札幌京都サンガ愛媛FCAC長野パルセイロの5クラブが12月決算。それ以外のJ1・J2・J3クラブは1月決算。すべて2015年度決算の時点。Jクラブ個別経営情報開示資料(平成27年度)より。いずれにせよ事業年度の末日が提出期限(10月31日)の6か月以上前なので提出義務が生じる。

*19:なお、従来はF.06に設けられていた文言で、且つ、「ライセンス申請者は資金繰り表、財務状況に関する見通しのリスクとを説明する資料を作成し、ライセンス申請者の財務面での見通しについて説明しなければならない。」とされていたため、当時よりも厳しくなっている。

*20:その他の改正点を列挙する。交付規則F.03とF.04における日付について、12月31日は6月30日に、3月31日は8月31日に変更されている。運用細則F.01について、3(3)に関連会社等の規定が設けられた。運用細則F.06の1(2)②ハで、「当期の営業収入予算」が求められていたが、「当期の損益見込(当期純利益もしくは当期純損失の金額を含むもの)」に置き換えられた。同じく運用細則F.06について、1(2)③に「LMが個別に指定したクラブのみ対象とする」という制限が設けられた。運用細則F.06についてはその他に、2(2)の審査手順が従来とは異なり、3には③と④が追加され、4の(1)と(2)が削除された。

第7回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)

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今回はクラブライセンス制度の中でも特に重要な施設基準。範囲は交付規則34条です。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準、各種基準のまとめ(35条)
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について
第14回クラブライセンス制度の全体像、おわりに



[Ⅰ]施設基準の概要

早速ですが、施設基準のアウトラインを確認することにしましょう。
施設基準が設けられている目的については、交付規則34条に示されています。

交付規則 第34条〔施設基準〕


(1) 施設基準の目的は、以下のとおりである。


① ライセンス申請者が各競技会を開催可能な、安全で快適なスタジアムを有すること
② ライセンス申請者が所属選手の技術的スキルの向上に役立つ、適切なトレーニング施設を有すること


ここに書かれているように、施設基準の対象はスタジアムとトレーニング施設
項目と等級を一覧にしてまとめると次のような内容となっています。


規則番号等級項目記号
I.01A等級公認スタジアム
I.02A等級スタジアムの認可
I.03A等級スタジアム:入場可能数
I.04A等級スタジアム:運営本部室および警察・消防司令室
I.05A等級スタジアム:観客エリア
I.06A等級スタジアム:医務室・救護室
I.07A等級スタジアム:安全性
I.08A等級スタジアム:承認された避難計画
I.09A等級/C等級トレーニング施設
I.10A等級アカデミーのトレーニング施設
I.11B等級スタジアム:基本原則
I.12B等級/C等級スタジアム:衛生施設
I.13B等級/C等級スタジアム:屋根
I.14C等級スタジアム:案内サインと動線
I.15A等級/C等級スタジアム:身体障がいのある観客
クラブライセンス制度導入時との比較を記号欄で示している。各記号の意味は次の通り。
 ☆:新設の規定 ○:大きな変更あり △:軽微な変更あり ◆:別の基準から移動した


この全てを網羅的に取り上げるのは流石に難しいので、この中から重要そうな項目と、クラブライセンス制度導入時から変更があった内容について取り扱いたいと思います。

[Ⅱ]スタジアムのキャパシティ

施設基準の中でも重要な項目として、まずスタジアムの入場可能数について確認しましょう。
スタジアムのキャパシティに関する基準は次のように示されています。

交付規則 I.03 スタジアム:入場可能数(A等級


(1) スタジアムは、Jリーグ規約に定める算定方法により、以下の人数が入場可能でなければならない。


① J1クラブ主管公式試合:15,000人以上
② J2クラブ主管公式試合:10,000人以上


(2) 当該スタジアムが前項第2号のみを充足する場合には、J1クラブライセンスは交付されないものとする。


この基準の中で気になるのは次の3つのポイントではないでしょうか。

  1. 「Jリーグ規約に定める算定方法」とは何か
  2. 「第2号のみを充足する場合」について
  3. そもそも1万5000人と1万人という数値が基準になった根拠

そこで、これらのポイントを順番に確認していくことにしましょう。


1つ目のポイント「Jリーグ規約に定める算定方法」はJリーグ規約29条に示されています。
簡単に1枚の画像にまとめると次のようなカウント方法です。


https://lh3.googleusercontent.com/rF0PTYftd5P-6r3jLsXX839PUvpz5YwjWLhnDq0r2YcPRK1IMJt0Pmuyp2wGwu5dLBNZjrEWoZCH6g9cdzfJb3RMi6pK9JkoUsptwhV7378AhhnmrVsfPHNMw0oVGDwNYrNvEQ=w960-h720-no


このように、芝生席は観客席とみなされない等の細かい指針が示されています。
恥ずかしながら立ち見エリアが観客席としてカウントできるのは初耳でした*1

換言すれば、スタジアムのキャパシティとして所有者(主に行政)が公開している数値とライセンス審査上の数値とでは齟齬が生じる可能性があるということです。


次に、2つ目のポイントである「第2号のみを充足する場合」について。

第2号のみを充足する場合とは、スタジアムのキャパシティが1万人以上1万5000人未満の場合。
したがって、スタジアムのキャパシティが1万5000人以上ならJ1ライセンスが交付され、1万人以上1万5000人未満であればJ2ライセンスが交付されることになります*2

そして、現時点ではJ1ライセンスJ2ライセンスとを区分しているのはこの規定のみ
その意味でもこの規定が施設基準の中でも重要なポイントなのはお分かり頂けると思います。


最後に、3つ目のポイント、1万5000人と1万人という基準についてです。
そもそも、AFCではこのような基準は設けられておらず、完全にJリーグの独自ルール*3

1万5000人という基準が生まれたのはクラブライセンス制度導入より遙か前の1990年。
Jリーグへの参加を表明した団体に対して参加意思確認書が配布されたときのこと。

第1章 Jリーグのビジョン――「百年構想」の「制度設計」はいかに創造されたか
《広瀬一郎『「Jリーグ」のマネジメント』(東洋経済新報社、第1版、2004)43頁》


3.スタジアムの確保


■リーグ戦、リーグ・カップ戦の日程に合わせ、自由に使用できる1万5,000人以上収容可能で夜間照明設備のあるスタジアムを確保しなければならない。


スタジアム施設の使用については、地方自治体と地方協会との連動のなかで相互の協力を必要としています。


Jリーグ」全体の運営を事業として成り立たせるためには、大量の観客動員が必要であり、前項の「フランチャイズ制の確立」同様、そのための重要課題として全国規模のリーグとしてのスタジアム施設の確保が必要と考えられます。


当時1万5000人という数字を使用した根拠については分かっていません。
ただ、最低限これくらいあればいいだろうと決めたのではないでしょうか。

そして、1万人という基準は1999年のJ2リーグ創設によって生まれた基準*4
これらの基準が現在まで受け継がれ、施設基準にも盛り込まれているのです。


このように、クラブライセンス制度に規定されていますが、その基準は昔ながらのもの。
一点だけ違うのはその運用が厳格なものになったという点でしょうか。

Jリーグ、ライセンス制13年導入、クラブ経営、厳しく審査、3年連続赤字で剥奪
日本経済新聞 2011年5月31日37面》


Jリーグが重視するのが施設基準と財務基準。スタジアムの収容人数はJ1が1万5000人、J2が1万人と、従来と変わらないが、より厳格に運用する。たとえばJ2徳島は今のままではJ1に上がれない。J1柏はこうした動きに対応し、本拠地を増築する。医務室や報道控え室の設置はもちろん、トイレの数も規定される。


上記記事にもあるように、柏レイソルは本拠地を1万5000人規模に増築しました*5
ちなみに柏は2011年にJ1優勝していますが、当時のキャパシティは約1万2000席*6
それがまかり通っていたのですから、やはり昔は基準が緩かったのでしょう。

この他に、町田や秋田などでもスタジアムの改修・新設計画が立ち上がっています*7


改修・新築で対応するクラブもある一方で、水戸のように長年苦しむクラブもあります*8

また、ギラヴァンツ北九州は新スタジアム建設に動いたものの竣工が2017年だったため、2016年シーズンまではJ1ライセンスが交付されませんでした*9

2014年の成績はJ2・5位で、クラブライセンス制度によってプレーオフ進出が阻まれた形*10
良くも悪くも施設基準が厳格に運用されていることがよく分かります。

[Ⅲ]スタジアムのトイレ

続いてスタジアムのトイレ(衛生施設)について確認しましょう。
トイレについてはB等級の基準とC等級の基準とがあります。

交付規則 I.12 スタジアム:衛生施設(B等級


(1) スタンドには、どの席からもアクセス可能な場所に、男女別のトイレ設備を十分に備え、かつ、車椅子席の近くには、多目的トイレを備えなければならない。


(2) トイレは、明るく、清潔で、衛生的でなければならず、試合中もその状態を保たなければならない。


(3) スタジアムは、1,000名の観客に対し、少なくとも洋式トイレ5台、男性用小便器8台を備えなければならない。

交付規則 I.12 スタジアム:衛生施設(C等級


(4) 前項にかかわらず、Jリーグでは、1,000名の男性観客に対し、少なくとも洋式トイレ3室、男性用小便器15台および洗面台6台、また、1,000名の女性観客に対し、少なくとも洋式トイレ28室、洗面台14台を備え、5,000人の観客に対して多目的トイレ1室を備えることが望ましい。


このように、観客1000人当たり洋式トイレ5台、男性用小便器8台が求められています。
しかし、我が国にはアジア競技大会や国体、2002年日韓W杯を目的に造られたスタジアムなど無駄に大きなスタジアムが点在しています(たとえば広島広域公園陸上競技場)。

そんなスタジアムが常に満席であるはずもなく、形式的に基準を適用するのは大きな負担。
そこで、運用細則において例外的な基準が設けられるようになりました*11

運用細則 I.12 スタジアム:衛生施設(B等級/C等級


3.判定


(2)前項に関わらず、基準I.12(3)においては、以下のとおり例外を設ける。


①審査対象であるスタジアムの客席数の60%(小数点以下を切り上げる)を母数とし、この母数が男女比同数から構成されているものとして、洋式トイレおよび男性用小便器の数を計算する(母数が奇数の場合は、余った1名を男女いずれかに任意に寄せるものとする)
②前号による計算の結果、基準I.12(3)または(4)の基準を充足することとなる場合には、当該基準の未充足に対する制裁は科さないものとする


この「60%ルール」によってFC東京横浜マリノスなどのクラブが救済されたそうです*12
この割合が適正かどうかはまた別の議論ですが、柔軟に対応できている点は評価できます。

[Ⅳ]スタジアムの屋根

続いてスタジアムの屋根に関する基準を見てみましょう。
こちらもトイレと同様にB等級の基準とC等級の基準があります。

交付規則 I.13 スタジアム:屋根(B等級


(1) スタジアムの屋根は、観客席の3分の1以上が覆われていることが推奨される。

交付規則 I.13 スタジアム:屋根(C等級


(2) 前項にかかわらず、スタジアムの屋根は、すべての観客席を覆うことが望ましい。


このように、原則として観客席の1/3以上を屋根が覆うことを求めています。

ところで、第5回で解説したようにスタジアムのトイレと屋根に関するB等級基準を充足していない場合は原則として制裁が科されますが、科されない特殊な場合も存在します。

運用細則 I.13 スタジアム:屋根(B等級/C等級


3.判定


(1) 判定は基準I.01の判定に包含する。
(2) 前項に関わらず、審査対象であるスタジアムの改修着工または新しいスタジアムの建設着工が確定し、工事の完了によって基準I.13(1)を充足する目途が立っている場合には、当該基準の未充足に対する制裁は科さないものとする。


このように、基準充足の目途が立っているときはB等級基準未充足による制裁が科されません

B等級基準未充足であっても制裁が科されない場合があるのは屋根とトイレのみ。
これら以外のB等級基準には制裁の留保が規定されていないため、原則制裁があります*13

[Ⅴ]スタジアムに求められるその他の要件と改正項目

前項まででクラブライセンス制度上、重要なスタジアム要件を確認してきました。
その他にも求められる要件がありますのでそれを最後に片付けます。

交付規則 I.01 公認スタジアム(A等級


(1)ライセンス申請者は、AFCクラブ競技会およびJリーグ公式試合の試合開催に利用することのできる、以下のいずれかの条件を満たすスタジアムを確保しなければならない。


①ライセンス申請者がスタジアムを所有していること
②ライセンス申請者と使用するスタジアムの所有者(複数ある場合はそれぞれのスタジアムの所有者)との間で、AFCクラブ競技会のホームゲーム(ライセンス申請者が出場資格を得た場合)およびJリーグ公式試合においてスタジアムを使用できることが、書面にて合意されていること。なお、Jリーグ公式試合におけるスタジアムの使用とは、ホームゲーム数の80%以上を当該スタジアムで開催することを指す


(2)前項のスタジアムは、日本国内にあって、JFAおよびJリーグに公認されており、Jリーグ規約に定める要件を満たしていなければならない。ただし、当該スタジアムがAFCクラブ競技会の会場として使用可能か否かを決める権限はAFCが留保する。


ホームスタジアムは、ホームゲーム数の80%以上を当該スタジアムで開催できることが要件
また、Jリーグ規約に定める要件を満たすことも求められています。

ここでいう「Jリーグ規約で定める要件」には次の条文が該当するようです。

運用細則 I.01 公認スタジアム(A等級


2.審査


(1)審査は以下の点について行われる。
④提出書類の内容に基づき、審査対象となったスタジアムがJリーグ規約第29条第2項、同第4項、同第6項、第30条、第31条、第32条、第35条の要件を満たしているか。


Jリーグ規約にはこの他に29条各号、33条、34条とありますがそれらは対象外なんでしょうか。
なお、中身について紹介すると大変なことになりますので割愛させて下さい*14


続いて改正項目について簡単に見ていきます。

まず、トレーニング施設について大きな改正がありました。
トレーニング施設はA等級基準でしたが、それに加えてC等級の基準ができたのです*15

交付規則 I.09 トレーニング施設(C等級


(4)第1項または第2項にかかわらず、ライセンス申請者は、年間を通じてライセンス申請者専用のもしくはライセンス申請者が優先的に利用できる以下のトレーニング施設を有していることが望ましい。


①クラブハウスに隣接した常時使用できるフルサイズの天然芝もしくはJリーグが認めたハイブリッド芝のピッチ1面および人工芝ピッチ1面。ピッチには、防球ネットを設けること。なお、ピッチサイドにクラブスポンサーの広告が掲出可能なスペースを設けること
②前号のピッチそれぞれについて設けられた観覧エリア。ただし、一般客およびメディアそれぞれのために設けられているものとする
③フットサルまたはビーチサッカー用のコート(第1号のピッチとは別のものであること)
④室内または屋根付きのピッチ1面(第1号のピッチとは別のものであること)
⑤以下の設備を備えたクラブハウス


また、トレーニング施設のピッチにハイブリッド芝が認められるようになりました
ハイブリッド芝とは、天然芝と人工繊維または人工芝を組み合わせた芝生のこと*16

痛みやすい天然芝をハイブリッド芝に変更することでピッチの稼働率向上が期待されます。
実際に浦和レッズの運営施設「レッズランド」で導入されているほか*17、神戸のノエビアスタジアム*18、釜石でも導入が検討されているそうです*19

詳しくやる余裕はありませんので、興味のある方は脚注に掲載した参考文献をご覧下さい。


nikkankensetsukogyo2.blogspot.jp


もう1つの大きな改正は、身体障がいのある観客に対する設備について。
こちらは逆に、従来C等級基準でしたが一部がA等級基準に格上げされました。

交付規則 I.15 スタジアム:身体障がいのある観客(A等級


スタジアムには、身体障がいのある観客とその付添人を安全かつ快適な状態で受け入れるための設備を設けることとする。具体的には、以下の条件を満たすこととする。


(1) スタジアムには、観戦の際の安全が確保され、かつアクセスが容易な場所に車椅子の入場者のための席(車椅子席)を設けなければならない。
(2) スタジアムには、車椅子の入場者の付添人用の椅子を備えなければならない


このように、施設基準は意欲的な改正が多く、今後もその傾向は続くものと考えられます。
上記の他にも改正項目はありましたが長くなりましたので割愛させて下さい*20


<今回のまとめ>

  • 施設基準の対象はスタジアムとトレーニング施設
  • スタジアムのキャパシティが1万5000人以上ならJ1ライセンスが交付され、1万人以上1万5000人未満であればJ2ライセンスが交付される
  • スタジアム所有者の発表するキャパシティとライセンス審査上のキャパシティとでは齟齬が生じる場合がある
  • 1万5000人/1万人基準はJリーグ独自のもので、現在はかなり厳格に運用されている
  • スタジアムのトイレと屋根に関するB等級基準未充足だと原則制裁がある


以上で施設基準については終了。
次回は施設基準と並んで重要な財務基準についてです。



*1:ただし、「入場券が発券できる座席」であることが前提であり、「立ち見エリアは、施設管理者と協議の上、入場可能な数」とあるため、無尽蔵に増やすことはできない。Jリーグ規約29条5項1号ニ。

*2:言うまでもないことだが、他の基準を全て充足している場合に限る。

*3:AFC Club Licensing Regulations 2016 9条。

*4:金森純「サッカースタジアム開発の意図と課題に関する研究- JFA の理念と「スタジアム標準」に着目して-」共栄大学研究論集14巻(2016)94頁。

*5:(サッカー・柏革命 J1初制覇)(下)意識変え 器を整える フロント改革、経営を効率化日本経済新聞 2011年12月6日付》。

*6:日立台の収容人数を数えてみた(新日立台ver)《Tassiy’s Blog 2013年12月5日付》。

*7:【オンライン署名が始まりました】「野津田公園スポーツの森」整備計画に関する署名活動のお知らせ町田ゼルビア 2017年2月26日付》、【座席数1・5万以上をクリア】野津田公園陸上競技場観客席増設、17年度に基本設計着手《日刊建設工業新聞ブログ  2017年6月15日付》、6.30 Jリーグクラブライセンスについての記者会見を行いました。ブラウブリッツ秋田 2016年6月30日付》、J2対応スタジアム 秋田県が新設検討河北新報 2017年5月16日付》

*8:集客ワーストからの脱却はなぜ実現したか?<前編> J2漫遊記 第3回・水戸ホーリーホックスポーツナビ 2012年7月31日付》、集客ワーストからの脱却はなぜ実現したか?<後編> J2漫遊記 第4回・水戸ホーリーホックスポーツナビ 2012年8月3日付》、2013シーズン Jリーグクラブライセンス交付における 「J2クラブライセンス」決定のご報告《J's GOALアーカイブ 2012年9月28日付》、2014シーズン Jリーグクラブライセンス交付における「J2クラブライセンス」付与のご報告《J's GOALアーカイブ 2013年9月30日付》、2015シーズンに関するJリーグクラブライセンス交付について《J's GOALアーカイブ 2014年9月29日付》、J2水戸にJ1ライセンス交付されず 本拠地改修に進展なし東京新聞 2016年9月30日付》。

*9:北九州の新スタジアム構想を追う J2・J3漫遊記ギラヴァンツ北九州<後編>スポーツナビ 2014年11月18日付》、北九州 新スタジアムへの胎動(♯5):J2番記者《Jリーグ.jp 2015年10月20日付》、2017シーズン Jリーグクラブライセンス判定についてギラヴァンツ北九州 2016年9月28日付》、【北九州スタジアムが完成】SPCが北九州市に引き渡し、こけら落としは2月18日[《日刊建設工業新聞ブログ  2017年1月31日付》。

*10:北九州の躍進を支える充実感と気概 J2・J3漫遊記ギラヴァンツ北九州<前編>スポーツナビ 2014年11月11日付》、北九州はなぜ3位を目指すのか。J1昇格を断たれたクラブの“意地”。《NumberWeb 2014年11月20日付》。

*11:この「60%ルール」は2013年1月22日の改正で追加された。この他、運用細則I.12については、3.判定のほぼ全てと、4.本基準に関するその他の遵守事項および注意事項の全てが、クラブライセンス導入時になかったものである。

*12:制裁免除のスタジアムが続出…Jクラブを救う「トイレ60%ルール」とは?サッカーキング 2015年10月1日付》。

*13:具体的には、競技基準のS.05「グラスルーツプログラム」と施設基準のI.11「スタジアム:基本原則」。

*14:なお、Jリーグ規約29条2項はスタジアムの要件について定めたもので、同条4項は座席数について、同条6項はスタジアムの照明装置について規定している。30条はスタジアムの付帯設備、31条は衛生施設、32条はベンチ、35条は広告看板灯の設置について規定している。また、クラブライセンス制度導入時は、「Jリーグ規約第29条第2項、第30条、第32条、第35条第1項の規定を満たしているか」とされており、対象条文・内容が現在とは異なっていた。

*15:それに合わせて運用細則にも大きな改正があった。運用細則I.09について、4.基準I.09に関するその他の遵守事項および注意事項のほとんどが改正追加項目。

*16:遂にJリーグで解禁された『ハイブリッド芝』ってなんだ? 【2017 Jリーグスタジアム基準】 《てぃふぉーじのある日常〜footballを添えて 2017年2月12日付》、【球技場に-注目集めるハイブリッド芝】ピッチの強度・耐久性大幅向上、稼働率アップも《日刊建設工業新聞ブログ 2017年5月2日付》。

*17:浦和が「ハイブリッド芝」で未来を見据える/コラム《ニッカンスポーツ 2016年7月27日付》、天然芝と人工芝のハイブリッド芝「XtraGrassTM(エクストラグラス)」が浦和レッズ運営施設「レッズランド」に採用]《三菱樹脂株式会社 2016年10月11日付》。

*18:ノエスタ神戸にハイブリッド芝 ピッチ不良克服へ神戸新聞NEXT 2017年1月4日付》、【改修費は2・2億円】ノエスタ神戸、ピッチハイブリッド化は年内着工《日刊建設工業新聞ブログ 2017年2月5日付》、スタジアムの芝がフルシーズンで緑に ノエスタ神戸で実験進む「ハイブリッド芝」…ラグビーW杯で本格導入も産経新聞 2017年6月3日付》。

*19:ハイブリッド天然芝採用へ 釜石W杯スタジアム岩手日報 2017年5月31日付》。

*20:残りの改正項目について列挙する。交付規則I.01及びI.02について、(3)の「当該書類の提出日から2年以内に発行されたものでなければならない。」という文言が追加された。運用細則I.10について、アカデミー認定に関わる規定が削除された。

第6回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)

元の記事へ移動

今回から、ついにクラブライセンス制度の本題=各種基準に入ります。
各種基準の初回は競技基準と法務基準について。範囲は交付規則33条と36条です。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準、各種基準のまとめ(35条)
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について
第14回クラブライセンス制度の全体像、おわりに



[Ⅰ]競技基準

まず最初に取り扱うのは競技基準です。
いきなり「競技基準」といわれてもさっぱり内容が分からないので目的を見てみます。

交付規則 第33条〔競技基準〕


(1) 競技基準の目的は、以下のとおりである。


① 最高の質を有するサッカー選手が育成され、継続的に輩出されることを確実にすること
② 明確な進路を備えた漸進的な育成体制を確立すること
③ クラブ固有の質を重視したアカデミープログラムを設計し、実施すること
④ アカデミー選手のために、サッカー関連の教育および補足的な理論教育に裏付けられたエリート選手向け技術教育を実施すること
⑤ 全選手のために総合的な医療支援サービスを提供すること
⑥ 適格性を有する人員がエリート選手の育成および管理に従事することを確実にすること


こうしてみると、選手の育成やトレーニング環境に関する基準なのだと分かります。
クラブライセンス制度導入時より目的が充実しており、Jリーグも力を入れているようです*1

続いて、競技基準に関する審査上の項目と等級は下記の通り。


規則番号等級項目記号
S.01A等級選手の育成体制(アカデミーチーム)
S.02A等級アカデミープログラム(Youth Development Programmes)
S.03A等級選手の医療面でのケア
S.04A等級教育プログラム
S.05B等級グラスルーツプログラム
S.06C等級人種的平等の実践
S.07C等級女子チーム
S.08C等級企業の社会的責任(CSR)プログラム
S.09C等級クラブユースアカデミー(Club Youth Academy)
クラブライセンス制度導入時との比較を記号欄で示している。各記号の意味は次の通り。
 ☆:新設の規定 ○:大きな変更あり △:軽微な変更あり ◆:別の基準から移動した


この中で注目すべきポイントを具体的に確認していきましょう。

S.01「選手の育成体制(アカデミーチーム)」、S.02「アカデミープログラム(Youth Development Programmes)」ではアカデミー、すなわちU-10、U-12、U-15、U-18の各チームを保有または支援しなければならないとされています*2

他方、女子チームの保有はC等級とされており、必須のものとはされていません。


クラブライセンス制度導入時と比較して気になる改正項目はS.04「教育プログラム」。

交付規則 S.04 教育プログラム(A等級


ライセンス申請者は、JFA審判委員会が説明するレフェリングおよびサッカー競技規則に関するルール講習会、ならびにスポーツ・インテグリティ、ドーピング管理およびその他AFCが求めるテーマに関するイベントやセッションに、選手、監督、コーチ、強化責任者が出席したことを証明しなければならない。


もともとは「レフェリングに関する事項と「競技規則」」という項目で、選手・監督・コーチ・強化責任者が講習会に出席することを義務づける内容でした。

これが拡大され、現在はスポーツ・インテグリティやドーピングに関しても含まれています。

ちなみに、スポーツ・インテグリティを一言で説明するのは難しいのですが、要するに、違法賭博、違法薬物、暴力、ドーピング、八百長などを許さず、スポーツ界の高潔性・健全性を確保しようという取り組みのことだとされています*3

近年のスポーツ界の動きが反映されたのではないでしょうか。


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また、S.05「グラスルーツプログラム」が新設されました。

交付規則 S.05 グラスルーツプログラム(B等級


(1) ライセンス申請者は、サッカーに関する平等なプレー機会を提供するために、ホームタウンに居住する12歳以下の子供を対象とする定期的な催しやイベント(以下「当該プログラム」という)を開催するものとする。


ホームタウンの子どもたちに対して定期的にイベントを開催するというごくごく普通の内容。
注目すべきはこれがB等級の基準とされていることです。すなわち未充足なら制裁の対象。

もっとも、ほとんどのJクラブがクラブライセンス制度導入前からグラスルーツプログラムに関する取り組みを実施しているでしょうから、制裁とは縁遠い基準だとは思いますが。

ただ、施設基準だけだったB等級項目が今後は他基準にも新設される可能性を示しています。


その他の改正としては、いずれもC等級ですが、S.08「企業の社会的責任(CSR)プログラム」とS.09「クラブユースアカデミー(Club Youth Academy)」が新設されたことなどがありました*4

[Ⅱ]法務基準

第二のテーマは法務基準。この基準は唯一その設置目的が示されていません*5

これは、法律上、規約上、規範上守るべきものを守るのが大前提であるということもあるでしょうし、それぞれ別の規約・規定等でその制度趣旨が示されているからかもしれません。


規則番号等級項目記号
L.01A等級AFCクラブ競技会出場への宣言書
L.02A等級クラブの登記情報
L.03A等級他クラブの経営等への関与の禁止
L.04A等級プロ選手との書面による契約
L.05A等級クラブ内の懲戒手続
L.06C等級選手と社員のための行動規範
クラブライセンス制度導入時との比較を記号欄で示している。各記号の意味は次の通り。
 ☆:新設の規定 ○:大きな変更あり △:軽微な変更あり ◆:別の基準から移動した


法務基準の項目は最も少なく上記6個のみ。自然と改正項目も少なめでした*6
内容も示されたものを守るというものがほとんどなので、1点だけピックアップします。

交付規則 L.03 他クラブの経営等への関与の禁止(A等級


ライセンス申請者は、クラブの経営、管理運営および/または競技活動に関わるいかなる自然人も法人も、直接と間接とを問わず、以下の各号のいずれにも該当しないことを宣言する旨の文書を提出しなければならない。ただし当該宣言書は、Jリーグへの提出期限3か月前以内に、クラブの代表者が社印を押印したものとする。


① 同じ競技会に出場している他のクラブの証券または株式を、重大な影響を与えうる割合で保有するかまたは取引すること
② 同じ競技会に出場している他のクラブの株主の議決権の過半数を有すること
③ 同じ競技会に出場している他のクラブの経営、管理運営および監督機関の構成員の過半数を任命するかまたは解任する権利を有していること
④ 同じ競技会に出場している他のクラブの株主であり、かつ、そのクラブのその他の株主と締結した契約に従って、当該クラブの株主議決権の過半数を単独で有していること
⑤ 同じ競技会に出場している他のクラブのメンバーであること
⑥ 同じ競技会に出場している他のクラブの経営、運営管理または競技活動に何らかの地位において関与していること
⑦ 同じ競技会に出場している他のクラブの経営、運営管理または競技活動について何らかの権限を有していること


この「他クラブの経営等への関与の禁止」という基準が2016年ににわかに話題になりました。

というのも横浜マリノスの親会社である日産自動車が、浦和レッズの親会社である三菱自動車工業の株式34%を取得し、筆頭株主となったからです*7


www.sponichi.co.jp


これによって日産自動車マリノスと浦和の両クラブに強い影響力を持つことになりました。

それは拙いということで、Jリーグが「法務基準L.03「他クラブの経営等への関与の禁止」に抵触する恐れがある」と浦和に対して指摘。対応を迫られることになりました*8

なお、この後に浦和の一部株式を三菱重工が取得し、増資もして問題は解消されています*9


Jリーグに限らず、スポーツ界は八百長等の影響を受けやすい性質を持っていますから、このクロスオーナーシップに対する制限は必要不可欠です(ある意味スポーツ・インテグリティ)。

実際、クロスオーナーシップ規制はクラブライセンス制度導入前から規定されていました。

Jリーグ規約 第25条〔Jクラブの株主〕 *10


(5) Jクラブは、直接たると間接たるとを問わず、他のJクラブまたは当該他のJクラブの重大な影響下にある法人の経営を支配しうるだけの株式(公益社団法人または特定非営利活動法人にあっては社員たる地位)を保有している者に対し、自クラブまたは自クラブの重大な影響下にあると判断される法人の経営を支配できるだけの株式(公益社団法人または特定非営利活動法人にあっては社員たる地位)を保有させてはならない。


ただし、Jリーグ規約による制限は、経営権の取得に限られていました*11
現実には経営権を取得せずともクラブに影響を与えることは可能でしょう*12

法務基準L.03は、クロスオーナーシップに対する制限を詳細且つ明確にしたものといえます。


<今回のまとめ>

  • 競技基準は、選手の育成やトレーニング環境に関する基準
  • 選手・監督は、競技規則だけでなく、スポーツ・インテグリティやドーピングなどについても学ばなくてはならない時代
  • 法務基準は、法律上、規約上、規範上守るべきものを守るという基準


今回はここまでとして、次回は施設基準の解説をしていきます。



*1:クラブライセンス制度導入時は、①質の高いアカデミープログラムを構築すること、②アカデミー選手のオフ・ザ・ピッチ教育についても支援・奨励すること、③アカデミー選手の医療ケアを充実させること、④ピッチ内外でフェアプレーを遵守すること、という4つが目的とされていた。

*2:Jリーグクラブライセンス交付規則33条2項F.01(1)。

*3:スポーツ・インテグリティ(Integrity)とは?《Jリーグ.jp 2017年6月16日閲覧》、スポーツ界のインテグリティの徹底スポーツ庁 スポーツ審議会スポーツ基本計画部会(第6回) 配付資料3》。

*4:これら以外の改正項目について述べる。まず、細かい点だが、交付規則S.01とS.02の順番が入れ替わっており、S.04にあった「プロ選手との書面による契約」が法務基準L.04に移動した。交付規則S.02(1)について、従来は「アカデミー認定の有効期間」もアカデミー申請書に記入する必要があったが現在は削除されている。運用細則のS.01について、U-10、U-12、U-15、U-18の定義が削除された。運用細則S.02の1について、アカデミー申請書の提出期限が4月30日から6月30日に変更されている。また、運用細則S.02の3(1)は削除されており、3(2)の②と③が変更された。運用細則S.04の2について、「「ルール講習会」においては、講習会当日にJリーグ(前条第2項に該当する場合はJFL)または講師が出席者を確認のうえ、ライセンス申請者が出席者リストを作成したかどうか」が削除された。運用細則S.06とS.07について、資料等の提出期限が6月30日とされた。

*5:Jリーグクラブライセンス交付規則36条。

*6:改正内容について簡単に説明する。L.01における宣言書の内容に「⑦電子システム等により提出済みのすべての文書、資料および情報は完全かつ正確であること」が追加された。L.02で提出する書類が「登記簿謄本」から「履歴事項全部証明書」、「印鑑登録証明書」の2点に変更された。L.04は競技基準S.04から移動したものである。

*7:日産自動車と三菱自動車、戦略的アライアンスを締結 日産、2,370億円で三菱自動車株34%を取得へ三菱自動車 2016年5月12日付》。

*8:浦和、一部株式を三菱重工が取得。日産自動車とのクロスオーナーシップ抵触を回避へフットボールチャンネル 2016年10月31日付、日産傘下入りの浦和、株主構成の変更により「赤を守る」《ゲキサカ 2016年11月1日付》。

*9:浦和レッドダイヤモンズの株式取得に関するお知らせ三菱重工 2017年10月31日付》、浦和レッズ、地域密着経営一段と 地元企業など16社が出資日本経済新聞 2017年1月26日付》。

*10:なお、現行のJリーグ規約からは削除されている。Jリーグ規約・規定集2016 20頁。

*11:なお、Jリーグ規約・規程集2017に掲載されたJリーグ規約(2017年1月25日改正)において25条5項の内容は削除されている。Jリーグ規約・規定集2017 20頁。

*12:例えば、筆頭株主ではなくとも議決権の1/3以上を保有することで株主総会の特別決議に対して拒否権を発動できる(会社法309条2項)。

第5回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)

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前回、Jライセンスの申請・審査・決定フローの説明をしました。
今回はJライセンスの交付上の取扱について確認していきたいと思います。

なお、今回のテーマについてはクラブライセンス制度導入時から大きな変更はありません。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準、各種基準のまとめ(35条)
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について、おわりに



[Ⅰ]Jライセンス決定後の取扱い

前回の最後で説明したように、Jライセンス決定会議の決定には、Jライセンスの交付、制裁付き交付、不交付という3種類のものがあります*1

このうち、Jライセンスの単純な交付と不交付について詳しい説明は不要でしょう。
以前も解説しましたが、JライセンスはJ1・J2の参加資格を意味しますので*2、交付されるならその参加資格があり、不交付なら成績は関係なしに参加資格を有しないというだけです。


というわけで、今回の取り扱うテーマはJライセンスの単純な交付と不交付以外のパターン。
単純な交付と不交付以外のJライセンス交付方法には、実務上も含めて3種類あるようです。


1つ目が、これまでも何回か触れてきた制裁付き交付
B等級基準未充足によるもので、Jライセンスは交付されますが制裁もついてきます。

交付規則 第8条 〔ライセンス制度上の制裁〕


(1) ライセンシーまたはライセンス申請者にB等級基準の未充足があった場合、当該ライセンシーまたはライセンス申請者はFIBまたはABにより以下の制裁(ただし、当該制裁は網羅的なものではない)が科される可能性がある。ライセンシーまたはライセンス申請者は、シーズンの開始前のみならず、シーズン中にも、制裁が科されることがある。


ちなみに、クラブライセンス制度上の制裁にはいくつか種類があるのですが、今回それを取り扱うと大変なことになる(文量的な意味で)ので第11回の補足説明で取り扱います。


2つ目が、Jライセンス交付に合わせて是正措置を通達する場合。
交付規則15条に規定されているように、これはクラブ経営上に関する内容が対象です。

交付規則 第15条〔FIBの権限および義務〕


(6) FIBパネルは、Jライセンス交付の可否を決定するにあたり、ライセンス申請者に対し、付帯事項としてクラブ経営上の是正措置を通達することができる。


3つ目が、条件付きライセンス交付
これは交付規則や運用細則で具体的に定められているものではないようです。

したがって、「本交付規則に定めのない事項」に該当するものと考えられます。

交付規則 第41条〔本交付規則に定めのない事項〕


(1) 本交付規則に規定されていない事項については、Jリーグ理事会がこれを決定する。


今回は以上の3パターンについて確認していきたいと思います。

[Ⅱ]制裁付き交付の運用方針

クラブライセンス制度導入から5年が経過していますので制裁事例も出ています。
そこで、これまで実際に科された制裁内容からその運用方針を探ってみましょう。


B等級基準未充足による制裁は前述したようにB等級基準未充足の場合に科されます。
次回以降で詳しく取り扱いますが、B等級基準には、特にクラブ単独で解決することが容易ではないスタジアムの屋根とトイレに関する基準が含まれています。

そのため、クラブライセンス制度導入初年度から制裁対象クラブが出ました
初年度は41クラブのうち、36クラブに制裁が科されていますからほとんどのクラブが対象。

クラブライセンス交付第一審査機関(FIB)による 2013シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について
《Jリーグ.jp 2012年9月28日付》


(2) B等級基準未充足


【注】クラブライセンス交付規則の用語上、「制裁」という厳しい言葉になっているが、本件における制裁の内容は「文書提出」である。具体的には、「2013シーズンにおいて使用することを予定するスタジアムの衛生施設および屋根の不足を理由とする観客に対するホスピタリティの欠如に対し、クラブが実施しているまたは実施を予定しているホスピタリティ向上策について、2012年10月31日までに書面で回答すること(ライセンス事務局が受付、FIBへ送付)」となっている。


このように、2013年シーズンライセンス決定では文書提出が科されています*3

ただ、初年度は上記のように注書きで「制裁とは名ばかり」というようなフォローまで入れてくれていたのですが、2年後の2015年シーズンライセンス決定から一転厳しくなりました

クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2015シーズン Jリーグクラブライセンス交付について
《Jリーグ.jp 2014年9月29日付》


■ホームスタジアムのトイレの数および屋根のカバー率に関するB等級基準未充足


制裁対象となっているホームスタジアムと対象クラブ、制裁内容は以下の通り。


未充足項目
 トイレの数(対象:2クラブ)
制裁内容
・対象スタジアム名を公表する
・クラブはトイレの洋式化の計画または構想を2014年12月31日までに提出する


未充足項目
 屋根のカバー率(対象:11クラブ)
制裁内容
・対象スタジアム名を公表する
・AFC主催大会のホームゲームが開催できない可能性があることを通知する
・クラブは屋根のカバー率不足への対応策または構想を2014年12月31日まで提出する


未充足項目
 トイレの数と屋根のカバー率(対象:11クラブ)
制裁内容
・対象スタジアム名を公表する
・AFC主催大会のホームゲームが開催できない可能性があることを通知する
・クラブは抜本的な施設改善計画(今後の活動計画)を2014年12月31日までに提出する
・2015年の審査時に計画の進捗が見られない場合には「戒告」とする


文書提出が求められている点は変わりませんが、対象スタジアム名の公表今後戒告処分となる可能性について言及した警告が出ています*4

さらに、2016年シーズンライセンス決定では、戒告処分の警告こそ無くなりましたが、トイレの数と屋根のカバー率の両方が未充足のクラブには「2016年の審査時に活動報告および翌年のクラブライセンス審査時までの活動計画を提出」と「活動報告および活動計画に関連し、クラブライセンス事務局が個別文書を発信する可能性がある」が追加されています*5


このように、B等級基準未充足による制裁は重くなる傾向が認められます。

第1回で説明したようにクラブライセンス制度はJクラブの水準アップも目的の1つでした。
逆に言えば、基準を示しているにもかかわらず何年たっても変わらないのでは困ります。
そのため手を変え品を変え、なんとかB等級基準充足クラブを増やそうとしているのです。


他方で、スタジアム問題はJクラブ単独でどうにかできるものでもありません。
スタジアム新設や大規模改修がおこなわれる場合は話が別ですが、そうではないクラブについては(矛盾するようですが)現状のように軽微な制裁が続くものと考えられます。

[Ⅲ]クラブライセンス制度上の是正措置通達

次に取り扱うのはクラブライセンス制度上の是正措置通達。根拠条文は前述の通り*6

この是正措置通達には是正通達と個別通知の2種類があるようです。

クラブライセンス交付第一審機関(FIB)による 2014シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について
《Jリーグ.jp 2013年9月30日付》


(3) クラブ経営上の指導


Jライセンス判定には直接関係ないが、判定に際し、クラブに経営改善を促す目的で、FIBが独自に指導を行うことができる。指導には「是正通達」および「個別通知」があり、「是正通達」のほうが重い指導となる。


是正通達
Jライセンス交付判定に付帯して、クラブ経営上是正すべきと思われる点について、FIBが対象クラブに通達を出す。通達の内容は公表する。(※対象:12クラブ)


個別通知
「是正通達」とまではいかないが、FIBからのクラブ経営上改善を要請する旨の指摘があった場合、それを受けたライセンスマネージャーが対象クラブに個別に指摘事項を通知する。(※対象:5クラブ)


個別通知よりも是正通達の方が重い措置で、内容も公表されることになります。

ただ、それだと現状のB等級基準未充足による制裁と変わらないような気もします。
財務基準に関わる措置なので厳しいものとなっているのだと受け止めるべきでしょうか。

なお、是正通達の具体的な中身は、①当年度の損益見通しをJリーグに定期的に報告すること、②翌年度予算編成時にJリーグに事前に説明すること、だとされています*7


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[Ⅴ]条件付きライセンス交付

最後に、条件付きライセンス交付について説明を加えます。
過去のJリーグによるプレスリリースをまとめると次のとおり*8


該当シーズン該当ライセンス対象クラブ条件の内容
2013年シーズンJ1ライセンス大分トリニータ融資の返済
J2ライセンスV・ファーレン長崎J2入会審査に合格
2014年シーズンJ2ライセンス町田ゼルビアJ2入会審査に合格
ツエーゲン金沢J2入会審査に合格
カマタマーレ讃岐J2入会審査に合格
2015年シーズンJ2ライセンスガイナーレ鳥取停止条件充足(増資)


4クラブがJ2入会審査を求められたのは当時の交付規則20条の規定によるものです。
余談ですが、交付規則20条は2014年12月10日の改正で削除されたため現在はありません。

交付規則 第20条 〔ライセンス申請者が準加盟クラブの場合の特則〕*9


ライセンス申請者がJリーグ準加盟クラブの場合は、第 22 条の定めのほか、Jリーグ規約第 15 条に定める審査を経て、Jリーグ理事会がJ2会員としての入会を承認しなければ、Jライセンスを付与されないものとする


一方で、大分や鳥取はそうした理由ではなく財政状態やキャッシュフローの問題。

第1回でも少しだけ触れていますが、大分は2009年頃経営危機に陥っており、その際Jリーグ公式試合安定開催基金から借入を行っていましたので*10 、その返済を求められた形*11

鳥取は、2014年10月30日までに条件(増資)を達成できればライセンス交付というもの。
プレスリリースにもありますが、資金繰りに懸念があったのでしょう。

2015シーズン クラブライセンス交付について
ガイナーレ鳥取 2014年9月29日付》


この度のクラブライセンス審査を通じて、弊クラブの財務管理能力の未熟さと今期及び来期のキャッシュフローの維持、つまりクラブ持続可能性が論点となりました。資金難の中、来季J2に向けて可能性はつながったと考えておりますが、クラブ代表としましては今回のライセンス付与条件のクリアは対処的な措置に過ぎないと考えており、根本的な基盤整備やガイナーレ鳥取の方向性を再度見つめ直す作業は避けて通れないと考えます。関係各位のご指導ご協力を仰ぎ、今後についての議論を進めて参る所存です。


財務基準の回で詳しい内容について解説しますが、大分は借入金返済の目途が*12鳥取は増資の目処が立っており*13、これが「ライセンス申請者の財務状況に(好影響か悪影響かを問わず)影響を及ぼし得るような経済的重要性のある事象」に該当し、それを加味して条件付きのライセンス交付となったのかもしれません*14


いずれにせよ、クラブライセンス制度を(良く言えば)柔軟に運用した結果、条件付きライセンス交付というような取扱いが存在しているものと考えられます。


<今回のまとめ>

  • Jライセンス決定会議の決定には交付、制裁付き交付、不交付の3つがあるとされているが、実務上は是正措置通達付き交付と条件付き交付というケースもある
  • B等級基準未充足による制裁は年々厳しくなる傾向にあるが、その性質から過度な制裁を科すことは難しい
  • 是正措置通達はB等級基準未充足による制裁と同じような厳しさ
  • 条件付き交付は根拠条文がなく、内容もクラブによって様々


長くなってしまいましたが、今回はここまで。
次回からついに各種基準の解説に入っていきます。



*1:Jリーグクラブライセンス交付規則運用細則 フロー11。

*2:Jリーグクラブライセンス交付規則1条、21条1項。

*3:なお、2014年シーズンライセンス決定における制裁は、2013年シーズンライセンス決定におけるそれと同内容。クラブライセンス交付第一審機関(FIB)による 2014シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について《Jリーグ.jp 2013年9月30日付》。

*4:なお、調べた限りでは戒告処分とされたクラブはないようである。ただし、非公表の場合は除く。

*5:クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2016シーズン Jリーグクラブライセンス判定について《Jリーグ.jp 2015年9月29日付》。

*6:Jリーグクラブライセンス交付規則15条。

*7:クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2015シーズン Jリーグクラブライセンス交付について《Jリーグ.jp 2014年9月29日付》。

*8:クラブライセンス交付第一審査機関(FIB)による 2013シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について《Jリーグ.jp 2012年9月28日付》、クラブライセンス交付第一審機関(FIB)による 2014シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について《Jリーグ.jp 2013年9月30日付》、クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2015シーズン Jリーグクラブライセンス交付について《Jリーグ.jp 2014年9月29日付》。

*9:ここではクラブライセンス交付規則2013(2012年12月11日改正)の条文を引用している。クラブライセンス制度導入時の条文とは多少違いがあるが大筋は同じ内容。

*10:Jリーグ公式試合安定開催基金の設置について《Jリーグ.jp 2005年7月19日付》、Jリーグ「公式試合安定開催基金」借入申請について (株)大分フットボールクラブ 代表取締役 溝畑宏のコメント《J's GOALアーカイブ 2009年11月11日付》。

*11:リーグ戦安定開催融資規程において、「制度融資を受けたクラブが第5条および第8条に基づき決定された返済期日までに融資を返済できなかった場合、当該クラブに対しては、返済期日の属するシーズンの翌シーズンのJリーグクラブライセンスまたはJ3クラブライセンスを原則として交付しない、または取消すものとする。」と規定されている(リーグ戦安定開催融資規程12条2項)。

*12:【トリニータ】借入金、きょう完済へ大分合同新聞社 2012年10月12日付》。

*13:2015シーズン クラブライセンスにおける停止条件の充足についてガイナーレ鳥取 2014年10月29日》。

*14:Jリーグクラブライセンス交付規則37条4項F.05(2)。